秋の帰還、実践が示した課題
同じ秋。
夏の間、北条への援軍として出陣していた小田氏治が、ようやく坂東へ帰還した。
出迎えの家臣たちは小田城へ向かうものと思っていたが、氏治は手綱を返す。
「まずは土浦へ行く。」
一行はそのまま自由都市土浦へ入り、氏治は土浦城へ着くや否や、真壁幹久と幹永の兄弟を呼び寄せた。
「実戦ほど良い試験場はない。」
氏治はそう言うと、戦場で使い続けた坂東筒、坂東サーベル、坂東鎧、そして盾を机へ並べた。
「坂東筒は良い。余計な仕組みを削ったおかげで壊れにくく、整備も早い。戦場でも扱いやすかった。」
幹久は静かに頷く。
「簡易さを追い求めた甲斐がございました。」
氏治は今度は坂東サーベルを抜いた。
「こちらも申し分ない。斬ることだけを考えた曲刀だけあって、乱戦では太刀より扱いやすい。兵たちも思い切って踏み込めていた。」
続いて胸当てを軽く叩く。
「坂東鎧も軽い。走れる、踏み込める、疲れにくい。機敏さを失わぬ鎧という狙いは間違っていなかった。」
どの武具も実戦で十分な成果を上げた。
しかし、氏治は最後に盾を手にすると、小さく唸った。
「……やはり、惜しい。」
幹永が尋ねる。
「何が不足なのでしょう。」
氏治は盾を構えて歩いてみせた。
「守るには十分だ。だが守るために止まってしまう。」
さらに坂東筒を構える仕草をする。
「鉄砲を撃つにも、刀を振るにも邪魔になる。どうしても持ち替えや構え直しが必要になる。」
そう言うと、氏治は突然笑った。
「もっとも、この盾で思い切り殴られれば、敵もさぞ痛かろうがな。」
部屋に笑いが広がる。
だが、氏治の表情はすぐに真剣なものへ戻った。
「いや、それだ。」
兄弟は顔を見合わせる。
「私が欲しいのは、守るだけの盾ではない。」
氏治は盾を軽く掲げる。
「攻める盾だ。」
部屋は静まり返った。
「矢や鉄砲を受け止めながら、そのまま前へ押し出していく。敵を押し返し、鉄砲隊も槍隊も、その後ろから前進できる。守るための盾ではなく、前線そのものを押し上げる盾が欲しい。」
幹永は感心したように呟く。
「まるで、動く城壁ですな。」
幹久も腕を組む。
「牛革も集まり始めています。軽く、丈夫にし、押しやすい形にできれば、新しい盾が生まれるやもしれません。」
氏治は満足そうに頷いた。
「坂東筒、坂東サーベル、坂東鎧は実戦で鍛えられた。ならば次は坂東楯だ。坂東の兵が盾を押し立てて進むだけで、敵が後ずさりするようなものを作ろう。」
秋の土浦では、勝利を祝う宴よりも早く、新たな武具を生み出す議論が始まっていた。




