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あきの、水牛街道と北方の乳

秋の実り ― 水牛街道と北方の乳

北浦坂東評定が終わると、坂東各地は一斉に冬支度へと移った。

坂東農業公社畜産部を率いる真壁幹永は、今年から韓牛の本格的なローテーション放牧を実施する。

牛は水戸領、真壁領、宍戸領、大掾領を季節に応じて巡り、それぞれの牧草地を休ませながら肥料を残していく。寒さに強い韓牛は冬の放牧にも耐えたが、子牛や病を患った牛、体力の落ちた牛だけは無理をさせなかった。

そのため、象が牽く大型の救急荷車が各地を巡る。

荷車には厚く藁が敷かれ、風除けの幕が張られている。歩けない牛はそこへ寝かされ、象はゆっくりとした足取りで北浦へ向かった。北浦には防風林に囲まれた牛舎と治療場が整備され、弱った牛は春まで静養することとなる。

一方、水牛は北浦、霞ヶ浦湖畔、そして利根川沿いを巡る「水牛街道」を移動していた。

水辺を好む水牛は湖や河川沿いの草地を渡り歩き、荷を運び、湿地を踏み固め、開墾を助ける。坂東では家畜の移動そのものが街道整備と物流を支える仕組みとなり始めていた。

そんな折、大掾領から早馬が北浦へ駆け込む。

「鹿島殿より急ぎの知らせです。」

幹永が文を開くと、思わず笑みを浮かべた。

シャムやルソンの人々が次々と大掾領へ渡来しているという。

鹿島政道が率いて帰国した傭兵団が故郷へ送った知らせを聞き、「坂東なら腕一本で土地が持てる」と評判が広がり、今度は鹿島が迎えに行くまでもなく、自ら海を渡ってやって来る者が後を絶たなかった。

彼らは水牛の扱いと湿地の開墾に長けていた。

温暖な大掾領では水牛を使った開墾が急速に進み、新しい集落や田畑が次々と生まれていく。

「人手が足りぬと案じていたが、今度は土地を用意する方が追いつかぬな。」

幹永は苦笑した。

その数日後、朝鮮から渡来した一団が北浦を訪れた。

しかし、その中には朝鮮人だけではなく、さらに北方の地に暮らしていた者たちも混じっていた。

彼らは牛や馬の乳を発酵させる技術を持ち、幹永へ自ら作った発酵乳や乳の保存食、そして馬乳酒を振る舞う。

酸味のある発酵乳は爽やかで、固く締めた乳の保存食は兵糧として申し分ない。

最後に馬乳酒を口にした幹永は、しばらく杯を眺めていた。

「……これは面白い。」

そう呟くと、隣にいた職人たちへ顔を向ける。

「宍戸殿の蒸留器で、この馬乳酒を蒸留したら、どんな酒になるだろうか。」

その一言に、周囲は静まり返る。

やがて一人の職人が笑った。

「試してみなければ分かりませぬ。」

幹永も笑みを浮かべて頷く。

「坂東は新しいものを試す国だ。ならば酒もまた、試してみよう。」

こうして秋の坂東では、水牛街道が本格的に動き出し、韓牛の巡回放牧が定着し始める一方で、北方から伝わった乳製品や馬乳酒という新たな食文化もまた、静かに根を下ろそうとしていた。

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