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北浦の冬

北風が北浦を吹き抜け始める頃、真壁幹永は牧場を見回っていた。

韓牛は寒さにもよく耐えていたが、水牛は肩を寄せ合いながら風を避けている。

幹永は腕を組み、小さく頷いた。

「やはり北浦の冬は甘くない。」

すぐに農業公社の役人と職人が集められた。

「今年の冬支度を始める。」

まず命じたのは、防風林の整備であった。

笠間から運ばれた栗の若木を中心に、松や竹も交えて牧場の周囲へ植え、北風を和らげる。

次に牛舎である。

「藁は惜しまず敷け。」

「夜は韓牛と水牛を寄せて休ませる。」

「互いの体温で寒さを凌がせるのだ。」

さらに朝鮮で学んだ知恵も取り入れた。

「子牛と病の牛だけは別だ。」

職人へ図面を渡す。

「床下へ煙道を巡らせた建物を造れ。」

朝鮮のオンドルを応用した医務室と子牛舎である。

「牧場すべてを温める必要はない。」

「命を繋ぐ場所だけを温めればよい。」

さらに幹永は牛舎の裏手を指差した。

「堆肥場も改める。」

「牛糞と藁、落ち葉を積み重ね、何度も切り返して発酵させよ。」

役人は首を傾げる。

「肥料のためでしょうか。」

幹永は首を横に振る。

「それだけではない。」

「発酵すれば熱を持つ。」

「冬は周囲を暖め、春には畑を肥やす。」

「琉球芋も牧草も、この堆肥で育てるのだ。」

冬が深まる頃には、牛舎では韓牛と水牛が身を寄せ合い、子牛舎と医務室ではオンドルの暖かな床が命を支え、防風林は冷たい北風を受け止めていた。

堆肥場からは白い湯気が立ち昇り、北浦牧場は一つの循環として動き始める。

しかし、それでも領民の悩みは尽きなかった。

「牛が乳を出しません。」

「子牛が立てません。」

「水牛が餌を食べなくなりました。」

毎日のように領民が北浦城を訪れ、家畜について相談する。

北浦城の一室に設けられた牛問診団は、朝から晩まで人で溢れ返っていた。

ある夕暮れ、幹永は長い列を眺めながら呟いた。

「……もう限界だ。」

家臣が尋ねる。

「部屋を増やしますか。」

幹永は静かに首を横へ振った。

「違う。」

「城ごと使う。」

その言葉に家臣たちは息を呑んだ。

「殿……北浦城を、ですか。」

「そうだ。」

幹永は城を見上げた。

「この城は敵を防ぐだけの城ではない。」

「坂東の家畜を守る城でもある。」

その日、北浦城は大きく姿を変えた。

本丸は診療と研究を行う獣医学舎となり、広間は飼育法を教える講義場となる。

蔵は薬草や治療器具を収める薬庫へ改められ、曲輪には隔離舎、回復舎、牛舎、子牛舎が整備される。

庭では蹄の治療や繁殖の研究が行われ、西暦で記された診療録や血統帳が日々積み重ねられていった。

氏治はその報せを聞き、穏やかに笑った。

「幹永、お前は城を一つ造り替えたな。」

幹永は静かに頭を下げる。

「牛も、水牛も、馬も、豚も、羊も、坂東を支える命です。」

「ならば、その命を守る城が一つくらいあってもよいでしょう。」

こうして北浦城は、その全域を開放し、「北浦獣医学舎」として新たな歴史を歩み始めた。

そこは城であり、病院であり、研究所であり、学び舎でもある。

坂東の家畜と農業を支える知恵は、この北浦の城から各地へ広がっていくのであった。

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