夏の晩餐
七月、梅雨が明けた頃。
この年の夏の評定は、いつものように軍略や政務を論じる場ではなかった。
自由都市土浦で試食展示会が大成功を収めたことを受け、氏治は坂東諸将を招き、公社の成果を味わう晩餐会を催したのである。
広間には石岡・真壁一帯で育てられた食材が並ぶ。
豚肉の炙り焼き。
羊肉の香草焼き。
アヒルの汁物。
牛乳と酥。
そして蒸したジャガタラ芋と琉球芋。
氏治は杯を掲げ、笑顔で言った。
「今日は戦の話は後回しだ。」
「まずは坂東の実りを味わおう。」
笑い声の中、真壁幹久が立ち上がった。
「本日は、三種類の豚肉をご用意しました。」
家臣たちが皿を並べていく。
「一つ目は放牧を主体に育てた豚。」
「二つ目は規格外となったジャガタラ芋を多く食べさせた豚。」
「そして三つ目は、酥を作る際に出る乳清や、夏場に出る醤油の搾りかすを餌に混ぜ、試験的に育てている豚でございます。」
諸将は興味深そうに食べ比べを始めた。
宇都宮尚綱は次々と口へ運び、大きく頷く。
「どれも旨いが、それぞれ違うな。」
宍戸も静かに味わう。
「放牧のものは身が締まっております。」
「芋を食べさせたものは脂が甘い。」
氏治も三種類を順番に味わい、真壁へ視線を向けた。
「確かに違う。」
真壁は帳面を開いた。
「餌を変えると肉の質も変わるようです。」
「特に芋や乳清を与えた豚は脂の甘みが増し、獣臭さも少なくなるように感じます。」
「まだ試験段階ですが、餌を選んでいけば、さらに食べやすい豚肉になるでしょう。」
治彦も頷いた。
「餌まで記録して比較しているのですね。」
「ええ。」
真壁は帳面を示す。
「何をどれだけ与えたか、成長や味とともに記しております。」
「今は数を増やすだけでなく、より良い肉を作ることも大切と考えております。」
さらに真壁は続けた。
「酥を作る際に出る乳清も、捨てればそれまでです。」
「家畜が食べるなら無駄になりません。」
「醤油の搾りかすも同じです。」
「人が使い終えたものを家畜へ回し、家畜がまた人を養う。」
氏治は満足そうに笑った。
「それこそ公社のあるべき姿だ。」
「一つも無駄にしない。」
最後に氏治は尋ねる。
「ジャガタラ芋は、いつ頃から坂東中へ配れそうだ。」
真壁は静かに首を振る。
「今はまだ、その時ではございません。」
「今年は種芋を増やすことを最優先としております。」
「あと数年お待ちいただければ、坂東中へ十分な量を配ることができます。」
氏治は深く頷いた。
「急がず、確実に育てよ。」
「飢えを救う作物だからこそ、失敗は許されぬ。」
夏の夜は更けていく。
軍議ではなく、実りを味わい、技を語り合う宴。
その席では誰もが、坂東の未来は戦だけではなく、農と畜産によっても築かれていくことを実感していた。




