実りの評定
新年。
小田城には坂東の諸将が集まり、新年最初の評定が開かれていた。
例年であれば軍勢や城普請、近隣諸国の動向が議題となる。しかし今年、氏治は静かに口を開いた。
「今年の評定は戦ではない。」
「坂東を豊かにする話をしよう。」
その一言に、家臣たちは顔を見合わせた。
氏治は上座に座ったまま、鹿島へ視線を向ける。
「鹿島殿。まずは報告を。」
鹿島は立ち上がり、南方から持ち帰った品々を並べた。
「昨年の航海では、ジャガタラ芋、琉球芋、唐黍、南蛮胡椒、南瓜、葡萄、苺をはじめ、多くの種子や苗木を持ち帰りました。」
「それぞれの栽培法も現地で学び、記録しております。」
氏治は静かに頷く。
「まずは土浦城内に試験畑を設けよ。」
「霞浦兵学館の学徒に栽培と記録を任せる。芽吹き、収穫量、病への強さ、土地との相性、すべてを書き残せ。」
治彦も口を開く。
「良く育った株から種を採り、さらに良いもの同士を掛け合わせていけば、坂東に適した品種が育ちます。」
氏治は続けた。
「成果が出た作物は、坂東農業公社が管理する。」
「各地へ苗や種を配り、栽培法も合わせて広めよ。」
鹿島は一礼した。
「承知いたしました。」
「まずは東南で実績のあるジャガタラ芋、琉球芋、唐黍、南瓜から先行導入し、各地の農家にも試験栽培を依頼いたします。」
宍戸も頷く。
「兵学館が記録をまとめ、農村が実際に育てる。双方の結果を比べれば、最も良い育て方が分かりましょう。」
氏治は満足そうに笑った。
「それでよい。」
続いて真壁が進み出る。
「私からも願いがございます。」
「真壁領石岡に、豚と羊の試験牧場を設けたいと存じます。」
評定の間が静まり返る。
「羊は羊毛を得るため。豚は肉、脂、革を得るためです。」
「さらに屠殺所と加工場を併設し、肉は塩漬けや燻製に、革は革職人へ、羊毛は機織り職人へ渡します。」
「自由都市土浦で商人や職人を広く募り、新たな産業として育てたいと考えております。」
陳猛哲は笑みを浮かべた。
「異国では当たり前の仕組みですな。」
氏治は頷く。
「よし。坂東農業公社と連携して進めよ。」
今度は宇都宮が立ち上がった。
「私からも一つ。」
「牛の改良をお願いしたく存じます。」
「牛は坂東の財です。」
氏治は静かに頷いた。
「しかし役牛は、いずれ坂東馬へ置き換えていく。」
「農耕や荷運びは坂東馬に任せ、牛は用途を分けよ。」
家臣たちは息を呑む。
「乳の多く出る牛は乳牛として育てる。」
「肉付きの良い牛は肉牛として育てる。」
「代々選び掛け合わせ、坂東に最も優れた牛を作り上げよ。」
宇都宮は深く頭を下げた。
「御意。」
氏治はさらに続けた。
「牛は命を終えた後も無駄にはするな。」
「乳は食となり、肉は兵と民を養う。」
「革は鎧、靴、馬具に。」
「骨は道具に。」
「角は弓工へ渡し、坂東弓の増産に充てよ。」
モンケは感心したように呟く。
「農と軍が一つにつながりますな。」
氏治は最後に鹿島と陳猛哲へ向き直った。
「そして、坂東だけで満足するな。」
「朝鮮や明との交易で優れた牛を探せ。」
「朝鮮牛をはじめ、異国の牛を導入し、坂東の牛と掛け合わせる。」
「丈夫さ、乳量、肉付き、そのすべてをさらに高めよ。」
鹿島は力強く答えた。
「港と交易は私にお任せください。」
陳猛哲も頷く。
「福建や朝鮮との商人を頼れば、必ず道は開けましょう。」
氏治は評定の間をゆっくりと見渡した。
「戦で国は守れる。」
「だが、豊かな国でなければ、その戦も長くは続かぬ。」
「畑を耕し、家畜を育て、人を集め、技を磨く。」
「今年は坂東が実る年とする。」
家臣たちは一斉に頭を下げた。
この年始の評定は、後に「実りの評定」と呼ばれるようになる。
坂東が軍事国家であると同時に、農業、畜産、交易、学問を柱とする豊かな国へ歩み始めた、その第一歩として語り継がれることとなった。




