冬を越える種
秋も過ぎ、木枯らしが吹き始める頃。
年の瀬を間近に控えた鹿島港へ、鹿島政道率いる船団が姿を現した。
港は歓声に包まれ、氏治は真壁、宍戸、治彦、陳猛哲、モンケらを伴って出迎える。
船から降りた鹿島は深く頭を下げた。
「氏治様。ただいま帰還いたしました。」
「無事で何よりだ。」
氏治は笑みを浮かべた。
「積もる話もあるだろう。まずは屋敷へ参ろう。」
一行は鹿島の屋敷へ移り、運び込まれた木箱や鉢植えが次々と座敷へ並べられる。
鹿島は最初の箱を開いた。
「こちらはジャガタラ芋にございます。痩せた土地でも育ちやすく、飢饉に強いと聞いております。」
続いて細長い芋を取り出す。
「こちらは琉球芋。」
さらに大きな穂を机へ置いた。
「これは唐黍。」
赤い小さな実の入った袋を開き、
「南蛮胡椒。」
蔓の付いた苗を広げ、
「葡萄。」
白い花をつけた苗を示し、
「苺。」
丸々とした実を掲げる。
「南瓜。」
座敷には異国の香りが漂い、誰もが興味深そうに品々を見つめていた。
「これほどまでに……。」
宍戸が感嘆すると、鹿島は厚い帳面を差し出す。
「栽培法も教わってまいりました。植え付けの時期、水やり、土地の性質まで記しております。」
治彦は頁をめくりながら目を丸くした。
「ここまで残してきたのですか。」
「商人も農夫も、惜しみなく教えてくれました。」
氏治は静かに頷く。
「これらは珍しいだけの品ではない。坂東の未来を支える財だ。」
数日後。
土浦城では、この異国の作物について評定が開かれていた。
氏治は広げられた種や苗を見ながら口を開く。
「まずは土浦城内に試験畑を設ける。」
宍戸が頷く。
「城内なら管理もしやすく、盗難も防げます。」
「食べるためではない。」
氏治は続ける。
「育て方を学び、土地に合うものを選び、良く育つ株からさらに種を採る。そのための畑だ。」
治彦も言葉を添えた。
「収穫量や病気への強さも記録しましょう。優れた株同士を選び続ければ、この土地に合う品種が育ちます。」
氏治は頷いた。
「その役目は霞浦兵学館に任せたい。兵を育てるだけではない。農もまた国を支える学問だ。」
すると真壁が静かに手を挙げる。
「氏治様、葡萄につきましては、すでに手を打っております。」
「ほう。」
「夏に自由都市土浦の市場で異国商人から苗木を買い求め、宍戸殿と相談して丘陵地へ植え付けました。」
宍戸も笑みを浮かべる。
「冬を越えれば、春には芽吹くでしょう。酒造りにも向く品種があるようです。」
氏治は満足そうに頷いた。
「さすが真壁殿。先を見ておったか。」
鹿島も続ける。
「一方、ジャガタラ芋や琉球芋、南瓜など、東南の暖かな地で広く育てられているものは、実際の畑へ早めに試験導入したいと考えております。」
「兵学館だけでは土地の違いは分かりません。農民にも少しずつ預け、実際の畑で育ててもらうべきでしょう。」
宍戸は賛同した。
「兵学館が栽培法と記録をまとめ、農村が実地で試す。双方を照らし合わせれば、この坂東に最も合う育て方が見つかります。」
氏治は一同を見回した。
「よし、それでいこう。」
「土浦城内には兵学館の試験畑を設ける。そこで種を守り、記録を取り、良い株を選び続ける。」
「そして農村では、東南で実績のある芋類や南瓜、唐黍などを試験栽培し、収穫の結果を兵学館へ報告する。」
「いずれ坂東の土に最も適した作物を育て上げよう。」
その言葉に、皆が力強く頭を下げた。
戦のためにも、人々の暮らしのためにも。
異国から運ばれた小さな種は、この冬、土浦から新たな歴史を芽吹かせようとしていた。




