坂東評定二日目、那珂川港城構想
八月、坂東評定二日目。
氏治は那珂川流域の大きな絵図を広げた。
「恋瀬川橋城の普請は順調です。」
「ですが、坂東にはもう一つ築くべき城があります。」
諸将の視線が絵図へ集まる。
氏治は水戸を指した。
「那珂川沿い、水戸です。」
「ここへ新たな城を築きます。」
水戸頼治が立ち上がる。
「どのような城をお考えでしょうか。」
氏治は穏やかに笑った。
「港みたいな城。」
「そして、城みたいな港です。」
広間に小さな笑いが広がる。
真壁が苦笑した。
「橋みたいな城の次は、港みたいな城でございますか。」
「ええ。」
氏治は頷いた。
「恋瀬川橋城は敵を止める城でした。」
「しかし那珂川の城は、人と物を迎え入れる城です。」
「平時は港として栄え、戦となれば港そのものが要塞となる。」
「それが水戸港城です。」
すると水戸頼治が一歩前へ進み出た。
「氏治様、一つ申し上げます。」
「水戸には古くから船着き場がございます。」
「これを拡張し、水門、倉庫、土塁を加えれば、一から港を造るより普請を早められましょう。」
氏治は満足そうに頷いた。
「それは良い。」
「恋瀬川橋城は橋そのものを築く大普請。」
「一方、水戸は今ある港を育てればよい。」
「商いを止めることなく、港城へ造り替えていきましょう。」
水戸頼治はさらに続けた。
「もう一つ。」
「堺や南蛮から大筒を買い入れ、港へ配備してはいかがでしょう。」
評定の間が静まり返る。
氏治は少し考え、静かに首を横へ振った。
「良い案です。」
「ですが、今は見送ります。」
真壁が理由を尋ねる。
「なぜでしょう。」
氏治は静かに答えた。
「我らの研究者は多くありません。」
「今は築城、工兵、武具の整備に力を集中させます。」
「モンケ殿には築城と工兵、火薬の改良。」
「治彦殿には武具の規格化と兵学の整備。」
「今は一つ一つを確実に進めることが大切です。」
モンケも深く頷いた。
「研究を絞れば、その分だけ進歩も早くなります。」
氏治は再び絵図を指した。
「港城には改良型トレビュシェットを据えます。」
「据え置き式ですが、左右へ射界を調整できるよう工夫してください。」
「石玉だけでなく、焙烙玉も投射できるものとします。」
モンケは微笑んだ。
「坂東工兵の技術を結集した投石機にしてご覧に入れます。」
氏治は今度は笠間、益子、水戸を指した。
「焙烙玉には良い陶器が欠かせません。」
「笠間と益子の窯元は領として保護し、生産を増やします。」
「焼き物はまず水戸へ集積し、民の器を優先して焼く。」
「余力で焙烙玉を備蓄し、さらに余剰の焼き物は水戸港から諸国へ売り出してください。」
「平時は民を豊かにし、戦時は国を守る。」
「同じ窯が、その両方を支えるのです。」
最後に氏治は評定の間を見渡した。
「恋瀬川橋城は敵を止める城。」
「水戸港城は富を迎え入れる城。」
「一つは戦を支え、一つは商いを支える。」
「この二つが揃った時、坂東は武と富を兼ね備えた国となるでしょう。」
諸将は静かに頭を下げ、新たな築城が正式に動き始めた。




