真壁の家畜庫
春先に捕らえ、囲いの中で育てていた猪たちは、見違えるほど大きくなっていた。
真壁幹久は柵の前に立ち、腕を組む。
「……もう十分だな。」
傭兵たちが頷く。
「大将、肉にするなら今がよい。」
猪は暴れたが、手慣れた者たちによって捌かれた。
肉は腸詰めにされ、脂は保存され、骨は出汁に使われる。
何一つ無駄にはしない。
「食うために飼い、飼うために畑を整える。」
真壁は静かに呟いた。
開拓地では、家畜の糞を集めて肥料にする仕組みも整い始めていた。
猪や羊、馬、象の糞を寝藁と混ぜ、堆肥として寝かせる。
それを畑へ入れれば、痩せた土地も少しずつ力を取り戻していく。
宍戸から教わった水路と畦の工夫も加わり、田畑は目に見えて良くなっていた。
さらに川沿いでは、来季の鴨新田に向けた準備が進んでいる。
浅い水場を整え、囲いを作り、鴨が泳ぎ回れる田を用意する。
農民たちは口々に言った。
「鴨が虫を食えば、稲も強くなる。」
「糞も肥やしになる。」
「肉も卵も取れる。」
真壁はその言葉を聞きながら、高台へ登った。
半年前までは、林と荒地が広がっていた場所である。
今は違う。
丘には羊の囲い。
谷には畑。
川沿いには鴨新田の準備地。
道には荷馬車が行き交い、キャンプベースからは煙が上がる。
猪小屋、馬場、堆肥場、燻製小屋。
すべてがつながり、一つの仕組みとして動き始めていた。
「半年で、ここまで変わるものか。」
真壁は思わず笑った。
小田や土浦は商いと学問で栄えている。
その後ろで、真壁領は穀物庫ならぬ家畜庫として育ち始めていた。
肉を出し、脂を出し、毛を出し、肥料を出す。
そして肥料は田畑を育て、田畑はまた人と家畜を養う。
「悪くない。」
真壁は胸を張った。
かつては槍働きこそ己の役目と思っていた。
だが今は、畑が広がり、家畜が増え、領民が笑うこの景色が、戦で勝つことと同じほど誇らしかった。
「氏治様。」
真壁は遠く小田の方角を見つめる。
「真壁の地、必ずや坂東の腹を支える地にしてみせますぞ。」
夏の日差しの下、家畜の鳴き声と鍬の音が響く。
真壁領は、坂東の新しい力として、確かに育ち始めていた。




