北の装い
宴が一段落すると、若い長がシレトクと何やら話し始めた。
「どうしたんです?」
少弐が尋ねる。
シレトクは少弐たちの格好を指した。
「しばらくここにいるつもりなんだろう?」
「そのつもりです。」
「だったら、その格好は目立ちすぎるってさ。」
少弐は自分の衣服を見る。
和人としては特別奇抜なものではない。
だが、ここは宗谷である。
ましてマリアたち三人は、どこから見ても西洋から来た旅人だった。
長は何かを言いながら笑う。
「近くのコタンへ行くたびに、あの大きな船から来た異国人だと騒がれたら面倒だろう、だって。」
「なるほど。」
少弐も納得した。
これから周辺を歩き、海について聞き込みをするつもりなのだ。
少しでも土地の装いに合わせた方が動きやすい。
話を聞いていた村の女たちが立ち上がった。
そしてマリア、イネス、ライラを手招きする。
「私たち?」
マリアが自分を指差す。
何やら楽しそうに話している。
シレトクが笑った。
「着替えさせてくれるそうだ。」
三人は女衆に連れられていった。
少弐にも長が衣服を用意してくれた。
こちらは比較的簡単だった。
多少大きさを調整すれば着られる。
少弐は教えてもらいながら袖を通し、帯を整える。
「どうでしょう。」
長が頷く。
シレトクは少弐を上から下まで眺めた。
「服だけなら随分それらしくなった。」
「服だけ、ですか。」
「顔まで変えるわけにはいかんだろ。」
少弐は笑った。
あとは三人を待って船へ戻るだけだった。
ところが――。
なかなか戻ってこない。
少弐は長と煙草を吸う。
まだ来ない。
酒を少し飲む。
まだ来ない。
「……着替えるだけですよね?」
「そのはずなんだがな。」
シレトクも首を傾げる。
しばらくすると、離れた家の方から女たちの笑い声が聞こえてきた。
どうやら相当苦戦しているらしい。
理由は単純だった。
三人とも、このコタンの女性たちとは体格が違いすぎたのである。
マリアは比較的合わせやすかったものの、それでも肩幅や丈を調整する必要があった。
イネスはさらに難しかった。
「短いです。」
長身のイネスが着ると、本来想定していた位置まで裾が届かない。
女たちは別の衣服を持ってきては比べ、紐や帯で調整していく。
そして一番苦戦したのがライラだった。
ライラは背丈だけなら何とかなった。
しかし胸囲が大きく、村にある既製の衣服では前合わせに十分な余裕がない。
「……また駄目?」
ライラが尋ねる。
女たちが揃って首を横に振る。
もう一着。
やはり合わない。
とうとう年配の女性が腕を組み、ライラの身体と衣服を交互に見比べた。
そして何事か言う。
周囲が笑った。
「何て言ったの?」
マリアが尋ねる。
近くにいたシレトクの妹が笑いながら身振りで説明する。
どうやら、
「服が悪いんじゃない。この人に合わせて作らないと駄目だ」
ということらしい。
結局、少し大きめの衣服を探し、紐の位置や前合わせを調整することでようやく収まった。
三人が長の家へ戻ってきた頃には、少弐は二度目の煙草を吸い終えるところだった。
「遅かったですね。」
マリアが呆れた顔をする。
「誰のせいだと思ってるの。」
「私ではないでしょう。」
イネスは自分の裾を見ながら笑った。
「私たち、思った以上にこちらでは大きいみたいです。」
最後にライラが入ってくる。
少弐は三人を眺めた。
先ほどまでの西洋の旅人とは、まるで印象が違う。
「似合っていますよ。」
ライラは少弐の格好を見る。
そして笑った。
「あなたもね。」
シレトクが四人を見渡した。
「よし。」
「これなら明日から、少しは歩きやすくなる。」
今日は一度、希望号へ戻る。
だが明日からは、この土地の衣服を借り、この土地の者たちと同じ道を歩く。
宗谷での調査は、ようやく本格的に始まろうとしていた。




