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コタンの宴

挨拶が済むと、長は一行を家の中へ招き入れた。


少弐が贈った濁り酒が開けられたことをきっかけに、いつしか村の者たちも集まってきた。


誰かが魚を持ってくる。


別の者は鹿肉を。


干した鮭、山菜、木の実、汁物。


希望号からも米や干物などを持ち込み、気付けば家の中には随分と賑やかな食卓が出来上がっていた。


「宴になってしまいましたね。」


イネスが笑う。


「酒を持ってきた時点で、こうなる気はしていたけど。」


ライラも楽しそうだった。


何より大きかったのはシレトクの存在である。


彼が間に座って言葉を取り持つだけで、互いの警戒心は驚くほど薄くなった。


マリアが魚の名を尋ねれば、村の者が身振りを交えて教える。


イネスが薬草に興味を示せば、年配の女性たちが次々と別の草まで持ってくる。


ライラは漁具や小刀の扱いに興味を示し、男たちと身振り手振りで盛り上がっていた。


そして少弐は、長から贈られたばかりのキセルを手に、すっかり長の隣へ収まっている。


その時だった。


料理を手にした村人が、食べ始める前に少し不思議な仕草をした。


食べ物をすぐ口へ運ばず、いったん身体の後ろへ回すようにする。


マリアが目を丸くした。


「今のは何?」


シレトクは笑った。


「食べる時の作法だ。」


少弐たちにも、村の者がゆっくりやって見せる。


「こうして、食べ物をいただけることに礼をする。」


「ただ腹を満たすためだけに食うんじゃない。」


シレトクはそう説明すると、少弐にも真似をするよう促した。


少弐は少々ぎこちなく料理を持ち上げる。


「……こうですか。」


村人たちが一斉に笑った。


どうやら違ったらしい。


「違う、違う。」


シレトクが少弐の手を直す。


「こうだ。」


「なるほど……。」


もう一度。


今度は長が満足そうに頷いた。


少弐もようやく料理を口へ運ぶ。


「うん。旨い。」


それだけで再び笑い声が上がった。


マリアも挑戦する。


イネスは一度見ただけで器用に真似た。


ライラは大胆にやり過ぎて、また村人たちを笑わせた。


言葉が完全に通じなくとも、不思議と困らなかった。


間違えれば教えてもらえばよい。


分からなければシレトクに聞けばよい。


そして一緒に食べ、一緒に酒を飲み、笑えばよかった。


少弐は長からもらったキセルを吹かしながら、楽しそうに騒ぐ仲間たちを眺める。


箱館を出た時には、ここから先は異なる文化の土地だと身構えていた。


だが実際に待っていたのは、温かな食事と笑い声だった。


シレトクが少弐の隣へ座る。


「どうだ。」


「アイヌの村は。」


少弐は杯を傾けた。


「まだ何も分かっていません。」


そして笑う。


「だから、面白い。」


シレトクも笑った。


宴は夜まで続いた。


一本角のカムイを追って始まった北への旅。


しかし一行はこの夜、探していた角とはまったく別の宝物――北の人々と付き合うための最初の作法を、少しだけ身につけたのであった。

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