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煙と酒の挨拶

コタンへ入った一行は、まず長のもとへ通された。


シレトクが先に進み、長の前へ座る。


二人はアイヌ語でしばらく言葉を交わした。


妹婿との関係。


箱館から来たこと。


そして少弐たちが、北の海について知るため宗谷を目指していること。


話を聞き終えると、長は少弐たちをゆっくり見渡した。


シレトクが振り返る。


「大丈夫だ。」


「挨拶を。」


少弐は前へ進み、丁寧に頭を下げた。


「小田家より参りました、少弐冬明と申します。」


言葉がすべて通じるわけではない。


シレトクが間に入り、一つ一つ伝えていった。


少弐は持参した瓶を取り出した。


中には箱館を発つ前に用意しておいた濁り酒が入っている。


「友好の証として、お納めください。」


シレトクが訳す。


長は瓶を受け取ると中身を確かめ、ぱっと表情を明るくした。


そして何事かを言う。


「何と?」


「『シレトクの友なら、我らの友でもある』と。」


長は声を上げて笑った。


少弐も笑みを返す。


すると長は傍らから煙草を取り出し、少弐へ差し出した。


少弐はそれを受け取ったものの――手が止まった。


「……。」


長も首を傾げる。


少弐は苦笑した。


「キセルを持っておりません。」


シレトクが訳すと、長は少弐の腰や懐を見回した。


そして、


「おや?」


という顔をする。


一瞬の沈黙。


やがて長は大声で笑い出した。


何かを家人へ命じる。


ほどなくして一本のキセルが運ばれてきた。


長はそれを手にすると、少弐へ差し出した。


シレトクも笑っている。


「酒をもらったから、ちょうどいい返礼だそうだ。」


少弐は驚いた。


「これは……よろしいのでしょうか。」


長は構わないというように手を振った。


少弐は両手で受け取る。


「ありがとうございます。」


今度は長が自分のキセルへ煙草を詰めた。


少弐も見よう見まねで新しいキセルへ煙草を詰める。


火が移される。


二人は並んで煙を吸った。


少弐は一口吸ったところで、思わず少し咳き込んだ。


長がそれを見て豪快に笑う。


シレトクまで笑った。


「慣れてないな。」


「……見れば分かるでしょう。」


少弐も苦笑する。


言葉は十分には通じない。


生まれ育った土地も違う。


信じるものも違う。


それでも、一瓶の酒を贈り、一本のキセルを返され、同じ火から煙草に火をつける。


それだけで互いの距離は随分と縮まった。


長は機嫌よく濁り酒の瓶を掲げた。


少弐もキセルを掲げる。


シレトクが笑った。


「これで、お前も客だ。」


北への旅で結ばれた最初の縁は、酒の香りと細い煙となって、コタンの中へ静かに広がっていった。

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