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アイヌの村での作法

翌朝、出航の準備を進めながら、少弐はシレトクへ尋ねた。


「シレトク殿。」


「村へ入る前に、私たちが気を付けるべきことを教えてください。」


シレトクは真剣な表情で頷いた。


「それは大事な話だ。」


「まず、村へ勝手に入るな。」


「村には必ず長がいる。」


「浜へ着いたら、その場で待ち、来訪を伝える。」


「長の許しを得てから村へ入るんだ。」


少弐は頷きながら書き留める。


「他には。」


「武器だ。」


シレトクはライラの剣へ目を向けた。


「剣や槍を持っていても構わない。」


「だが、抜くな。」


「抜けば喧嘩を売ったと思われる。」


ライラは静かに頷いた。


「もちろん。」


シレトクは続ける。


「それから酒。」


「酒は良い土産になる。」


「鉄の刃物も喜ばれる。」


「だが、まず先に贈り物を渡してから話をする。」


「商売はその後だ。」


マリアは手帳へ書き込んだ。


「先に贈答、後で交渉。」


「そういうことだ。」


シレトクは笑った。


「それと、食事を勧められたら、少しでも口を付けろ。」


「断ると、『我らを嫌っている』と思われる。」


イネスが尋ねる。


「食べてはいけない物はありますか。」


「特にはない。」


「だが、食べ物を粗末にするな。」


「カムイから授かったものだからな。」


少弐は静かに頷く。


「なるほど。」


シレトクは少し考えてから、最後に付け加えた。


「もう一つ。」


「熊でも鯨でも鮭でも、村の者が『これはカムイだ』と言ったら笑うな。」


「信じなくてもいい。」


「だが、笑えばその場で信用を失う。」


マリアたちは真剣な表情になる。


「宗教を尊ぶことですね。」


「そうだ。」


シレトクは力強く頷いた。


「俺たちも、お前たちの神を笑わない。」


「だから、お前たちも俺たちのカムイを笑うな。」


少弐は立ち上がると深く一礼した。


「よく分かりました。」


「私たちは知識を求めて来ました。」


「文化を変えに来たのではありません。」


シレトクは満足そうに笑った。


「その心があれば、大抵の村では歓迎してくれるさ。」※史実的にも、16世紀のアイヌ社会では、村長への挨拶、贈答、武器を抜かないこと、食物やカムイへの敬意は重要で、和人との交易でも贈答を重視する文化がありました。一方で、地域ごとに作法は異なっていたため、「村ごとに長へ挨拶する」という描写も自然です。

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