希望号の新たな仲間
館での話がまとまると、少弐はシレトクを連れて港へ向かった。
そこには、大きな船体を静かに揺らす希望号が停泊している。
シレトクは思わず足を止めた。
「……大きい船だ。」
少弐は微笑んだ。
「さあ、ご案内しましょう。」
甲板へ上がると、そこでは船員たちが帆を繕い、縄をまとめ、荷の積み込みを行っていた。
マリアが船長らしく指示を飛ばしている。
「そっちの樽は船尾へ!」
「真水は雨除けを忘れないで!」
船長はポルトガル人。
副長も船医もポルトガル人。
しかし、船員たちは実に様々であった。
日に焼けたマレー人らしき男。
中国語を話す水夫。
琉球から乗り込んだ若者。
朝鮮の船乗り。
日本人の水夫。
さらに西洋人もいれば、どこの国の者とも分からぬ顔立ちの男までいる。
まさに寄せ集めの船であった。
シレトクは目を丸くする。
「……この船は、一体どこの国の船なんだ。」
少弐は思わず笑った。
「私も時々分からなくなります。」
「船長はポルトガル人ですが、船そのものは世界中から集まった仲間で動いております。」
「だから共通語はポルトガル語です。」
その時だった。
甲板の向こうから声が飛ぶ。
「オーイ!」
「ショーニ! オハヨ!」
「キョウ、テンキ、イイネ!」
別の船員も笑顔で手を振る。
「サケ! ノム!」
「ハヤク! ゴハン!」
シレトクは思わず瞬きを繰り返した。
「……日本語か?」
少弐は苦笑した。
「ええ。」
「正確には、日本語らしきものです。」
マリアも肩をすくめる。
「少弐さんが毎日教えるものだから、みんな面白がって覚え始めたの。」
イネスも笑う。
「今では船の中で、日本語を話すのが流行っているくらいです。」
ライラが通り掛かった水夫へ声を掛ける。
「今日の調子は?」
「ゲンキ!」
「メシ、オイシイ!」
「シゴト、ガンバル!」
甲板中に笑いが広がった。
ポルトガル語が共通語ではある。
だが今では、それに混じって片言の日本語が飛び交う、不思議な船となっていた。
少弐はシレトクへ向き直る。
「言葉が違っても、人は案外通じ合えるものですよ。」
シレトクはゆっくり船員たちを見回した。
国も。
肌の色も。
信じる神も違う。
それでも笑い合い、一つの船を動かしている。
「……変わった船だな。」
少弐は誇らしげに頷いた。
「ええ。」
「ですが、私は世界で一番好きな船です。」
その言葉に、船員たちは誰からともなく拍手を送り、大きな笑い声が初夏の箱館の港へ響き渡った。




