北海への船出
津軽城での話を終えると、一行はそれぞれ渡航の支度に取り掛かった。
マリアは海図を広げ、津軽海峡から箱館、さらに北方へ続く海岸線を書き加えていく。
イネスは薬草や包帯、乾燥薬を点検し、寒冷地で使う医薬品を箱へ詰めていた。
ライラは剣や火縄銃を整え、旅の護衛に必要な武具を確かめる。
少弐は西海寺で写させてもらった絵巻の写しや寺の縁起、津軽から預かった紹介状を一つ一つ革袋へ納めていた。
やがて四人は机を囲み、この旅の目的を改めて確認する。
マリアが口を開いた。
「私たちの目的は、一つです。」
「ユニコーンの角の正体を突き止めること。」
少弐は頷いた。
「ここまでの調査で、ユニコーンそのものは実在の動物へ人々の想像が重なって生まれた存在である可能性が高くなりました。」
イネスが手帳をめくる。
「鹿、馬、そして犀。」
「東洋では麒麟、西洋ではユニコーンとなり、それぞれ異なる姿へ語り継がれたのでしょう。」
ライラも続ける。
「昨今、ヨーロッパで『ユニコーンの角』として売られている品も、その多くは犀の角や象牙など、アジアやアフリカから運ばれた品でした。」
少弐は静かに頷いた。
「大航海の時代となり、西洋諸国がアジアやアフリカへ航路を開いたことで、本物も偽物も大量に流通するようになった。」
「それが、近年の『ユニコーンの角』騒動の正体なのでしょう。」
マリアは一本角の鋒を描いた写しを見つめる。
「ですが……。」
「本当に知りたいのは、その前です。」
「ヨーロッパへ最初にもたらされた、あの螺旋の角。」
「その出どころだけは、誰も教えてくれませんでした。」
少弐は苦笑した。
「ハンザ商人たちは、頑として仕入れ先を明かしませんでしたからね。」
「それだけ利益の大きな品だったのでしょう。」
部屋は静まり返る。
やがて少弐は、西海寺で見た螺旋の鋒を思い浮かべながら言った。
「しかし、この津軽で新たな手掛かりが見つかりました。」
「西海寺に伝わる一本角の伝承。」
「海より現れた一角竜。」
「そして、螺旋を描く鋒。」
マリアは力強く頷く。
「私は、あの鋒とヨーロッパのユニコーンの角は、同じものではないかと思っています。」
「少なくとも、同じ生き物に由来する可能性があります。」
少弐は立ち上がり、窓の向こうに広がる北の海を見つめた。
「ならば答えは、この先にあります。」
「北へ。」
「一本角の伝承をたどり、その生き物の本来の姿を見つけ出す。」
ライラは静かに笑った。
「竜なのか。」
イネスも続ける。
「海獣なのか。」
マリアは胸の前で拳を握る。
「あるいは、誰も知らない生き物なのか。」
少弐は津軽から託された紹介状を懐へしまい込んだ。
「その答えは、北の海だけが知っています。」
こうして四人は、新たな航海へ向けて船出の準備を整えるのであった。




