↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
658/1029

北への渡りと津軽の交渉

西海寺を辞した翌日、少弐たちは再び津軽城を訪れていた。


少弐は津軽へ一礼すると、本題を切り出した。


「津軽殿、一つお願いがございます。」


「申してくだされ。」


「我らはこの先、蝦夷地へ渡り、さらに北方の交易や伝承を調べようと考えております。」


「もし差し支えなければ、箱館に住む和人や、北方交易に携わる者へ紹介状を書いていただけないでしょうか。」


津軽は静かに頷いた。


「その程度であれば、お安い御用にございます。」


「箱館には古くより取引のある和人がおります。」


「私の書状があれば、船も人も手配してくれるでしょう。」


マリアたちは安堵の表情を浮かべた。


しかし津軽は筆を取ろうとした手を止め、少弐へ静かに視線を向けた。


「その代わり……と言っては何ですが、私からも一つお願いがございます。」


「お聞きしましょう。」


津軽は広げられた地図へ手を置いた。


「小田様は南方交易のみならず、朝鮮との交易にも力を入れておられます。」


「対馬、五島を庇護下に置かれたのも、そのためと承知しております。」


少弐は静かに頷いた。


「左様です。」


津軽は津軽海峡を指差す。


「ですが、海とは一つの道だけに頼るものではございません。」


「もし九州で戦が起こり、対馬海峡が閉ざされれば、朝鮮との往来も滞ります。」


「その時、この津軽海峡は北回り航路の要となりましょう。」


少弐は黙って耳を傾ける。


「また、北方交易においても同じこと。」


「蝦夷へ向かう船の補給、修繕、風待ち、そして物資の集積。」


「その役目を、この津軽は担えます。」


津軽はゆっくり顔を上げた。


「私は南部と争いたいのではございません。」


「ですが、この地には南部にはない役目があります。」


「どうか北方交易においては、この津軽を少しだけ重く見ていただきたい。」


部屋は静まり返った。


「大きな造船所までは望みませぬ。」


「ただ、船を修繕できる工房と船着場、そして交易品を蓄える蔵だけでも整えていただければ、この津軽は必ずお役に立ちます。」


津軽は真っ直ぐ少弐を見つめる。


「……そのように、小田様へお伝えいただけますでしょうか。」


少弐はしばらく考えた後、静かに頷いた。


「津軽殿。」


「私は国の政を決める立場ではありません。」


「しかし、この数日で見聞きしたこと、そして津軽殿のお考えは十分理解いたしました。」


「この地は北方交易の補給港であり、有事には朝鮮への北回り航路を支える前線基地ともなり得ます。」


「その価値は、私自身が氏治様へ必ずお伝えいたします。」


少弐は右手を胸に当てた。


「少弐冬明の名に懸けて、お約束いたしましょう。」


津軽はゆっくり立ち上がり、深々と頭を下げた。


「ありがとうございます。」


「ならば私も、この名に懸けて北への渡りをお約束いたします。」


そう言うと津軽は紹介状を書き始めた。


宛先は、津軽海峡を渡った先、箱館に住む和人の頭領。


その一通の書状が、少弐たちを北方世界へ導く最初の鍵となるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。