一本竜と奥州藤原氏
マリアは興味を抑えきれない様子で、一歩前へ出た。
「住職様、お聞かせください。」
「この一本角の竜は、この辺りの海でも見られるのでしょうか。また、このような角は他にも残っているのですか。」
住職は静かに笑みを浮かべ、ゆっくりと首を横に振った。
「残念ながら、津軽の海でそのようなものが見つかったという話は、私は聞いたことがございません。」
「ですが、北との交流がまったく絶えていたわけでもございません。」
住職は屏風の北の海を描いた一場面を指差した。
「奥州藤原氏が滅んでからは、大きな交易は途絶えたように見えます。」
「しかし、安東氏や南部氏は、蝦夷との細い交易を今なお続けております。」
「毛皮や海獣の皮、珍しい牙などが運ばれてくることもあると聞きます。」
マリアは鋒へ目を移した。
「では、この角も北から……。」
「その可能性はございます。」
住職は頷いた。
「そして、もう一つ気になることがございます。」
住職は古い屏風の海の場面へ歩み寄る。
そこには一本角を持つ竜が、大波の中を泳ぐ姿が描かれていた。
「皆様、この姿をご覧ください。」
四人は屏風へ目を向ける。
少弐は眉をひそめた。
「……竜、でしょうか。」
住職は穏やかに笑う。
「私には、どうも違って見えるのでございます。」
「胴は太く、長くはありません。」
「尾も蛇のようではなく、魚の尾びれのように描かれております。」
「そして海より姿を現す。」
イネスは思わず口にした。
「まるで……鯨。」
「あるいは、セイウチやオットセイの類でございましょう。」
住職は静かに頷いた。
「古い絵師が見慣れぬ海獣を描き、後の世の者が『竜』と呼んだのかもしれませぬ。」
「一本角だけが強く人々の記憶に残り、やがて海神、一角竜として語り継がれたのでしょう。」
マリアの瞳が輝いた。
「ならば……実在した動物を見た人がいた。」
「その可能性は十分ございます。」
住職は静かに鋒を見つめる。
「少なくとも、この鋒だけは現にここにございます。」
「北方の海獣の牙なのか、それとも全く別の生き物なのか。」
「それを知るには、やはり北の海を訪ねるしかありますまい。」
少弐は静かに頷いた。
「伝承の終着点は、この寺ではない。」
「その先の北の海にこそ、答えがあるのかもしれませんね。」




