市中の古刹と田村麻呂の鋒
翌朝。
津軽は少弐たちを城へ迎えると、穏やかな笑みを浮かべて言った。
「今日は、この町をご案内いたしましょう。」
一行は城を出て、市中を歩く。
町はまだ大きくはないが、武家屋敷や町家が整然と並び、往来には荷を運ぶ馬や商人たちの姿があった。
歩きながら、津軽は城下を見渡して語る。
「この町は、まだまだこれからです。」
「いずれは寺を集め、道を整え、春になれば桜を数多く植えたいと思っております。」
ライラが感心したように辺りを見回した。
「戦のためだけではなく、人が集まり暮らす町を作るのですね。」
「ええ。」
津軽は静かに頷く。
「都のような華やかさは望みません。しかし北国にも、人々が誇れる町は築けるはずです。」
マリアも微笑んだ。
「西洋でも、教会や修道院を中心に町が栄えます。寺を集めるという考えは、とても理にかなっています。」
津軽は嬉しそうに笑う。
「そう言っていただけると励みになります。」
やがて一行は、市中でもひときわ古く、堂々とした山門を備えた古刹へと辿り着いた。
太い杉木立に囲まれた境内は静寂に包まれ、朝の風が梵鐘の余韻を運んでいる。
津軽は山門を見上げながら口を開いた。
「実は、皆様にお見せしたいものがございます。」
住職に案内され、本堂奥の宝蔵へ入る。
厳重に納められた長い木箱が静かに運び出されると、住職は丁寧に蓋を開けた。
中に納められていたのは、一振りの巨大な鋒であった。
柄はなく、穂先だけが残されている。
しかし、その鋒は常人の槍とは比べものにならぬほど大きく、成人の腕ほどもある幅を持つ。
さらに奇妙なのは、その姿である。
全体が緩やかな螺旋を描くようにねじれ、金属というより、象牙や角を思わせる自然な筋目をそのまま生かして造られていた。
イネスは思わず息を呑む。
「……これは鍛えたというより、素材そのものを削り出したようですね。」
住職は静かに頷いた。
「その通りでございます。」
津軽が続けた。
「この鋒にまつわる伝承は、本来は岩木山の古寺に伝わるものです。」
「長らく山中で祀られておりましたが、近年になって火災や盗難を案じ、この市中の古刹へ移したのです。」
少弐は鋒へ静かに歩み寄った。
近づけば近づくほど、その質感は鉄では説明がつかない。
角とも骨とも見える乳白色の地肌に、年月が生んだ飴色の艶が宿っている。
「これは……。」
少弐が呟くと、津軽は静かに言った。
「この地では――」
「坂上田村麻呂が北を平らげた折に用いた槍の鋒と伝えられております。」
境内には静かな風が吹き抜け、誰もがその異様な存在感に言葉を失っていた。
そして住職は穏やかな笑みを浮かべる。
「もしご興味がおありでしたら、この鋒にまつわる岩木山の古い言い伝えを、お話しいたしましょう。」
少弐たちは顔を見合わせ、小さく頷いた。
彼らが追い求める「一角の獣」の伝説へとつながる、新たな物語が、いま静かに語られようとしていた。




