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北国の本音

坂東ガレオン払い下げの契約。


さらに将来の坂東フリガッタ建造協力。


二つの大きな約定を結んだことで、南部晴政もすっかり少弐冬明へ心を開いていた。


夜。


酒宴も終わり、広間には晴政と少弐だけが残る。


晴政は酒を口に運びながら笑った。


「少弐殿。」


「はい。」


「最初は、若い使者が来たものだと思っておりました。」


少弐は苦笑する。


「今も若輩者にございます。」


「いや。」


晴政は首を振った。


「船を売り。」


「交易を結び。」


「未来の話まで持ってくる。」


「これは武将より商人の才であり、商人より外交の才です。」


少弐は頭を下げた。


「過分なお言葉です。」


晴政は地図を広げる。


「少弐殿は東北をどうご覧になる。」


「まだ勉強中です。」


「では。」


晴政は静かに語り始めた。


「南部は広い。」


その一言に全てが込められていた。


「広いがゆえに、治めるだけで精一杯です。」


「南には葛西。」


「西には安東。」


「北には蝦夷地。」


「一つ一つの村が遠く、冬になれば道は雪に閉ざされる。」


少弐は黙って聞いていた。


「都の方は東北を大国と言います。」


晴政は苦笑する。


「しかし実際には、人が少ない。」


「畿内や西国のように町が続くわけでもない。」


「この広さを治めるだけでも一苦労なのです。」


少弐は八戸の町並みを思い出した。


豊かな自然。


立派な馬。


しかし人影はまばらだった。


「津軽や蝦夷地とは交易しております。」


晴政は続ける。


「毛皮。」


「海獣の牙。」


「昆布。」


「鮭。」


「鷹。」


「それなりに富はあります。」


少し笑って杯を置いた。


「ですが。」


「その富を分け合うのは、せいぜい我ら南部と安東くらいのもの。」


「南へ運ぶ船が足りませぬ。」


「港も足りませぬ。」


「ゆえに、小田殿のご助力は実にありがたい。」


晴政は静かに頷く。


「坂東ガレオンとは、まさに渡りに船。」


その言葉に少弐も微笑んだ。


「必ずや、お役に立てるかと。」


「いや。」


晴政は笑う。


「役に立つどころではありますまい。」


「南部は変わるでしょう。」


その言葉は、まだ誰も実感していなかった。


しかし数年後。


北方交易は大きく発展し、この約定が南部の財政を支える一つの柱となる。


それはまだ、誰も知らない未来の話である。


しばらくして晴政は東北全体の地図を眺めた。


「少弐殿。」


「はい。」


「伊達も最上も元気ですな。」


「ええ。」


「どちらも若く、勢いがある。」


少弐は静かに頷いた。


晴政は酒を飲み干し、ゆっくりと言う。


「しかし我らは違います。」


「領地が広すぎる。」


「戦をして得るものより、治める苦労の方が大きい。」


「だから南部は、まず国を豊かにしたい。」


少弐は深く一礼した。


「そのお考えを伺えただけでも、この旅は大きな実りです。」


晴政は穏やかに笑った。


「少弐殿。」


「はい。」


「今日結んだ約定は、船の売買ではございませぬ。」


少弐も笑みを返す。


「ええ。」


「北国へ続く道を、一緒に造る約束です。」


二人は静かに杯を合わせた。


少弐は心の中で思う。


(大きな楔を打てた。)


葛西と南部は、軍事同盟ではない。


だが、富で結ばれた。


交易路が続く限り、互いに港を守り、互いの繁栄を願う。


伊達や最上がどれほど勢いを増そうとも、その先には北国全体が一つの経済圏として立ちはだかる。


遠回しではある。


しかし少弐は、葛西と南部を富によって結び付けることに成功したのであった。

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