北方交易の礎
南部晴政との会談は、その日のうちにまとまった。
席を立つや否や、少弐は安宅友通を呼ぶ。
「安宅殿。」
「はっ。」
「早船を一隻。」
「鹿島へございますな。」
少弐は頷いた。
「氏治様へ急報だ。」
「承知。」
安宅はすぐさま港へ走り、最も足の速い伝令船へ命を下す。
その書状には、
『南部家と坂東ガレオン払い下げ第二号契約成立』
と記されていた。
第一号は大友。
そして第二号が南部。
北の大大名との交易が、正式に始まったのである。
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安宅が戻ると、少弐はまだ地図を眺めていた。
「嬉しそうですな。」
「ええ。」
少弐は珍しく笑みを隠さなかった。
「これは大きい。」
マリアが首を傾げる。
「船を売れたから?」
「それもあります。」
少弐は地図へ指を置く。
津軽。
蝦夷。
さらに北の海。
「仮に。」
「本当に北方で、ユニコーンの角に近いものが見つかったとしましょう。」
三人は黙って聞く。
「その価値は計り知れません。」
「一本で坂東ガレオン何隻分にもなるかもしれない。」
イネスが頷く。
「赤字になるほど?」
「あり得ます。」
少弐は笑った。
「こちらが船を売っても、向こうから運ばれてくる品の価値が高すぎる。」
「それほど北には夢があります。」
ライラが尋ねる。
「角以外にも?」
少弐は次々と指を折る。
「毛皮。」
「海獣の牙。」
「昆布。」
「干鮑。」
「砂金。」
「良馬。」
「まだ知られていない薬草。」
「どれも坂東では欲しい物ばかりです。」
マリアは目を輝かせた。
「つまり。」
「交易そのものが利益になる。」
「その通り。」
少弐は静かに頷いた。
「だから私は船を売ったのではありません。」
三人は顔を見合わせる。
少弐は地図の南部領を指差す。
「顧客を得たのです。」
その言葉に安宅も思わず笑う。
「商人らしい発想ですな。」
「外交官です。」
少弐も笑い返した。
「ですが外交とは、互いに利益があるからこそ長続きします。」
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翌日。
少弐は再び南部晴政との席へ赴いた。
「実はもう一つ。」
晴政は興味深そうに頷く。
「まだございますか。」
「坂東ガレオンは交易船です。」
「はい。」
「ですが現在、小田では新型艦――坂東フリガッタの量産体制が整いつつあります。」
晴政は少し身を乗り出した。
「量産。」
「速度に優れ。」
「護衛もでき。」
「外洋にも強い。」
「北方航路にも向いております。」
晴政は静かに聞いている。
少弐は続けた。
「南部家が将来、独自に北方交易を広げられるよう。」
「必要となれば、坂東フリガッタの建造もお引き受けいたします。」
家臣たちがざわめく。
「新型艦まで。」
「技師も。」
「造船法も。」
「航海術も。」
「可能な限り協力いたします。」
晴政はしばらく考えた後、大きく笑った。
「少弐殿。」
「はい。」
「あなたは外交官というより商人ですな。」
部屋中が笑いに包まれる。
少弐も苦笑した。
「交易なくして国は豊かになりませぬ。」
晴政は力強く頷いた。
「その話、乗りましょう。」
「まずはガレオン。」
「そして将来は坂東フリガッタ。」
「ともに北の海を拓きましょう。」
少弐は深く一礼した。
この日、小田は東北最北の大大名・南部家という大きな取引相手を得た。
それは単なる船の売買ではない。
北方航路を支える、長き友誼の始まりでもあった。




