八戸への入港
数日後。
「希望」は北へ向けて順調に航海を続けていた。
その周囲を、新造された坂東フリガッタ艦隊が護衛する。
青く広がる太平洋を、整然とした隊列で北上していく様子は壮観であった。
しかし、その日。
艦隊に一本の伝令旗が揚がる。
旗艦より信号。
安宅友通が少弐たちのもとへやって来た。
「少弐殿。」
「何事です。」
安宅は沖合を指差す。
坂東フリガッタ艦隊の旗艦がゆっくりと隊列を離れ始めていた。
「大掾様は、これより鹿島へ急行されます。」
少弐は頷いた。
「氏治様への報告ですね。」
「はい。」
葛西晴信との会談。
気仙沼を北方航路の玄関とする提案。
中尊寺で得た数々の伝承。
そして今後の北方探索。
一刻も早く氏治へ届けるべき内容ばかりであった。
安宅は続ける。
「以後、この艦隊は私が指揮いたします。」
「よろしくお願いいたします。」
少弐は深く一礼する。
大掾の乗る旗艦は帆を大きく広げると、南へ向きを変え、みるみる水平線の彼方へ消えていった。
「希望」と残る坂東フリガッタは、そのまま北を目指す。
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数日後。
陸地が近づく。
「見えました!」
見張りの声が響く。
岬の向こうに天然の良港が姿を現した。
八戸。
南部氏の港である。
港にはすでに役人たちが整列して待っていた。
警戒した様子はない。
むしろ来訪を待っていたかのようであった。
少弐は小さく呟く。
「……早いな。」
安宅が笑う。
「大掾様が先回りしてくださいました。」
「先回り?」
「ええ。」
大掾幹康は気仙沼を発つ前に早船を出し、さらに陸路でも使者を送り、南部家へ事情を説明していたのである。
小田家の探検隊であること。
交易と北方調査が目的であること。
決して領土や軍事を目的とするものではないこと。
そのため、港では無用な詮議もなく、歓迎に近い形で迎えられた。
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翌日。
一行は南部家の居城へ案内された。
道中、ライラが周囲を見回す。
「思っていたより物々しくないわね。」
安宅が答える。
「大掾様の根回しのおかげでしょう。」
「外交は、戦より先に始まる。」
少弐も苦笑する。
「まったく、大掾殿らしい。」
役人たちは丁重に四人を奥へ案内する。
誰一人として敵意を見せる者はいない。
それどころか、
「遠路ようこそ。」
「長旅、お疲れでしょう。」
と茶や湯まで用意されていた。
少弐は改めて思う。
大掾幹康は海軍奉行であると同時に、一流の外交官でもあった。
使者を先に走らせ、誤解を解き、受け入れ態勢を整える。
そのおかげで、一行は武装した異国人でありながら、剣を抜くこともなく南部家の城門をくぐることができたのである。
少弐は城門を見上げ、小さく笑った。
「戦わずして道を開く。」
「これもまた、小田のやり方だな。」
安宅も静かに頷く。
「氏治様も、大掾様も、まず人を動かします。」
「兵を動かすのは、その後です。」
少弐はその言葉を噛みしめながら、未知なる北方世界への新たな一歩を踏み出した。




