関東安定の余波、東北戦乱の混沌
少弐は地図の上に駒を並べ、一つずつ動かしていく。
武田。
その駒を静かに盤から外した。
「……ここからだ。」
武田が滅んだ。
それも、小田・上杉・北条の三者が力を合わせて成し遂げた戦である。
その戦以後、東国の勢力図は根本から変わってしまった。
少弐は独り言のように呟く。
「上杉謙信公も、北条氏康殿も、もう東を見ていない。」
東には小田がいる。
互いに国境を接する場所はある。
しかし、その国境は戦場ではなくなった。
「背後を預けられる。」
その安心感が、両国の戦略そのものを変えた。
上杉は越中、能登、加賀、織田との対峙へ。
北条は新たに得た領国の経営と、関東の安定へ。
両雄とも、東国で消耗する理由を失ったのである。
少弐は最上の駒を手に取った。
「だから最上も動けない。」
いや、正確には――
「動かない。」
最上義守も、その家臣たちも愚かではない。
軍神・上杉謙信が背中を向けている。
それは隙ではない。
信頼である。
その背へ石を投げれば、振り返った軍神の怒りを買う。
その時、小田もまた黙ってはいまい。
最上はそれを理解していた。
だからこそ、越後へは手を出さない。
軍神の背中に石を投げるような真似はしないのである。
その代わりに。
「北だ。」
少弐は伊達と葛西の駒を近づけた。
上杉が西へ向き、
北条が南へ向き、
小田が東国をまとめる。
その結果として、東北だけが取り残された。
伊達と最上は競うように北へ目を向ける。
葛西はその狭間で揺れ動く。
少弐はようやく、この構図の本質を理解した。
「東北が荒れているのではない。」
「東国が安定しすぎたのだ。」
その安定が、伊達と最上に新たな競争の舞台を与えてしまった。
少弐は静かに立ち上がる。
「ならばなおさら、謙信公のお考えを聞かねばならない。」
この均衡は、武田滅亡後の三国同盟という土台の上に成り立っている。
その土台を誰よりも理解しているのは、氏治でも氏康でもなく、軍神・上杉謙信その人かもしれない。
北方航路の調査を終えたら、日本海へ向かう。
少弐はそう固く心に決めた。




