黄金の都への第一夜
平泉へ到着したその日。
葛西家の勧めで、一行はまず湯治宿へ身を寄せた。
米沢から奥州街道を北上するまでの道のりは決して短くはない。
徒歩よりは速いとはいえ、慣れない馬での長旅は思いのほか身体へ負担をかけていた。
湯から上がった四人は、囲炉裏のある広間へ集まり、用意された夕餉を囲む。
山菜の煮物、川魚の塩焼き、炊き立ての飯。
湯気の立つ味噌汁の香りが部屋いっぱいに広がっていた。
マリアは座布団へ腰を下ろすなり、大きく息を吐いた。
「歩くのとは違う疲れね……。」
イネスが苦笑する。
「ずっと鞍に座っていたから、お尻も腰も固まってしまったわ。」
ライラも肩を回しながら笑う。
「私は剣を背負っていたせいか、肩まで張ってしまった。」
少弐も珍しく苦笑を浮かべる。
「馬は便利ですが、乗り慣れていない者には楽な乗り物ではありませんね。」
「少弐も疲れた?」
マリアが尋ねる。
「ええ。」
少弐は素直に頷いた。
「昔はもっと長く乗れたのですが……今は腰が先に悲鳴を上げます。」
その言葉に三人は思わず笑った。
ライラが湯呑みを持ちながら言う。
「でも温泉のおかげで、ずいぶん楽になったわ。」
「私も。」
イネスが頷く。
「明日には筋肉の張りも取れているでしょう。」
少弐は夕餉を終えると、風呂敷から一枚の地図を取り出し、囲炉裏の横へ広げた。
「では、明日からの予定を確認しましょう。」
三人は自然と地図を囲む。
少弐は中尊寺のある場所を指差した。
「まずはここです。」
「中尊寺。」
マリアは嬉しそうに頷く。
「奥州藤原氏の本拠だった平泉……。黄金の国ジパングという話も、もしかするとこの土地の繁栄が西へ伝わるうちに尾ひれが付いたものなのかもしれないわ。」
イネスも興味深そうに続ける。
「そう考えると、ここは畿内とはまったく違う歴史を持つ場所ね。」
「そのとおりです。」
少弐は地図をなぞった。
「平泉は京から見れば北の果て。しかし北方交易の玄関口でもありました。」
ライラの瞳が輝く。
「つまり、蝦夷やさらに北から運ばれた品が残っている可能性がある。」
「ええ。」
少弐は頷く。
「毛皮や牙、角、珍しい工芸品……。私たちが探している一角竜の伝承につながる手掛かりが残っていても不思議ではありません。」
マリアは拳を軽く握る。
「何だか冒険らしくなってきたわね。」
「畿内では寺や朝廷の文化を追っていたけれど、ここでは北方世界への入口を調べることになる。」
イネスは画帳を抱き寄せた。
「描きたいものがたくさんありそう。」
囲炉裏の火が静かに揺れる。
四人は平泉で始まる新たな調査へ胸を躍らせながら、旅の疲れを癒やしたその夜を穏やかに過ごした。




