北への道 ― 伊達との会談
会津での調査を終えた少弐冬明たちは、北方航路の起点ともいえる平泉を目指し、陸路で米沢へ向かった。
同行するのは、会津を治める宇都宮朝綱である。
「伊達家とは私が顔を合わせましょう。東北は今、同盟こそ結んでおりますが、互いの勢力を探り合う時期でもあります。」
数日後、一行は米沢で伊達家の当主と対面した。
互いに礼を交わし、酒が振る舞われる。
伊達は穏やかな笑みを浮かべた。
「小田殿との交易は実にありがたい。鉄砲、塩、織物、それに坂東の品々は奥州でも評判だ。おかげで我らの城下も以前よりずっと賑わっておる。」
少弐も微笑む。
「それは何よりです。こちらも奥州の馬や木材、毛皮など、多くの恩恵を受けています。」
伊達は地図を広げる。
「ただし、東北はまだ落ち着いてはおらぬ。」
指先は仙台平野から北へ伸びる。
「我らは仙台平野を固めながら、さらに北を目指して勢力を広げている。しかし、その道は決して平穏ではない。」
宇都宮朝綱が静かに頷く。
「最上殿との駆け引きですな。」
「そのとおり。」
伊達は苦笑した。
「最上もまた庄内を望み、北へ勢力を伸ばそうとしている。互いに大戦こそ避けているが、国境では小競り合いが絶えぬ。」
さらに地図の東へ指を動かす。
「特に仙台より北、石巻方面は戦支度の兵や物見が行き交う。旅人であっても疑われることがある。」
少弐は真剣な表情で頷いた。
「つまり、海沿いは避けた方がよいと。」
「うむ。」
伊達は力強く答えた。
「平泉へ向かうなら内陸路を勧める。石巻方面は今は危険だ。余計な争いに巻き込まれる必要はあるまい。」
宇都宮朝綱も同意した。
「平泉への道は内陸にもございます。皆様の目的は北方交易と伝承の調査。戦場へ近づく理由はありません。」
少弐は深く一礼した。
「貴重なお話、痛み入ります。私どもは内陸路を進み、平泉で北方交易の記録を調べることにいたします。」
伊達は盃を掲げた。
「北にはまだ都人の知らぬ世界がある。どうか無事に、その答えを見つけてくだされ。」
こうして一行は伊達の助言を胸に刻み、戦火の気配漂う海沿いを避け、奥州藤原氏が栄えた平泉を目指して歩みを進めることとなった。




