北への扉 ― 地図の上の考察
会津・黒川城。
宇都宮朝綱は机いっぱいに古地図、寺社の縁起、修験者の記録、北方交易の覚え書きを広げた。
「氏治様より、皆様はいずれ北を目指されると伺っておりました。そこで磐梯一帯から会津、越後口、出羽へ通じる道、そして北方交易について調べ、まとめておきました。」
四人は礼を述べ、一冊ずつ手に取る。
そこには東北諸家の情勢、蝦夷との交易、北回り航路、そして会津各地に伝わる数多くの伝承が記されていた。
ライラが最初に気づいた。
「見て。龍神、大蛇、大百足、山の神……。」
マリアも頷く。
「京都や奈良では麒麟や鵺、鳳凰のような霊獣の話が多かったのに、北へ来るほど山や湖の神ばかりね。」
イネスは静かに記録を書き留める。
「しかも、その姿は現実の生き物に近いものが多いわ。蛇や熊、狼、鹿……。」
少弐はしばらく黙って考え込んだ。
「都では大陸から伝わった思想が霊獣という姿になり、絵や仏具として残された。しかし坂東や奥州では、人々は山や湖、海そのものを神として敬い、その土地で見た姿のまま語り継いだのかもしれない。」
ライラは腕を組む。
「文化の違いということ?」
「そうだ。」
少弐は地図の北へ指を滑らせた。
「文化の中心から離れるほど、大陸文化の影響は薄れ、古くからの自然信仰が色濃く残る。だから伝承も、理想化された霊獣ではなく、人々が畏れた自然の姿に近づいていく。」
マリアは微笑む。
「だからといって、それがユニコーンや麒麟そのものだとは言えない。」
「もちろんだ。」
少弐は頷く。
「私たちが探すべきなのは『ユニコーン』という名前ではない。もし角を持つ神聖な存在が伝わっているなら、それは土地ごとに違う名で呼ばれているはずだ。」
イネスは地図を見つめる。
「つまり、『角を持つ神』『海の神』『山の神』という伝承を追えばいいのね。」
宇都宮朝綱は一枚の絵図を静かに広げた。
「皆様の考えならば、まず訪れるべき場所があります。」
その地は、古くから会津の人々が霊峰と仰ぎ、龍神と山の神の伝承が数多く残る場所であった。
四人は顔を見合わせ、小さく頷く。
旅は、いよいよ北の伝承の核心へと向かおうとしていた。




