「会津城の奥座敷」
宇都宮朝綱は城門の前まで歩み出ると、一行を笑顔で迎えた。
「少弐殿、お待ちしておりました。」
「皆様も、長旅お疲れ様でございます。」
少弐は馬を降り、朝綱と固く握手を交わす。
「立派になったね、朝綱。」
「会津を任されるだけの風格が出てきた。」
朝綱は少し照れくさそうに笑った。
「まだ父には遠く及びません。」
「ですが、この地は必ず守り抜くつもりです。」
彼は三人にも丁寧に頭を下げた。
「マリア殿、イネス殿、ライラ殿。」
「ようこそ会津へ。」
一行は朝綱の案内で城へ入る。
かつての黒川城は大きく改修され、堅固な石垣と広い曲輪を備えた新しい会津城へと生まれ変わっていた。
城下町も整備され、武家屋敷や商人町が規則正しく並んでいる。
ライラは感心したように城を見上げた。
「新しい城なのですね。」
朝綱は頷く。
「ええ。坂東式の築城法も取り入れ、普請し直しました。」
「まだ工事は続いておりますが、奥州の要として恥じぬ城を目指しております。」
さらに歩いていくと、朝綱は笑顔で振り返った。
「皆様のお部屋は、城ではなく奥座敷をご用意しております。」
「奥座敷?」
イネスが首をかしげる。
「黒川温泉です。」
「城からほど近い温泉郷で、会津城の湯治場として整えてあります。」
マリアは思わず笑ってしまった。
「また温泉ですか。」
少弐も笑う。
「会津にもあるんだ。」
ライラは半ば呆れたように肩をすくめる。
「京都でも。」
「奈良でも。」
「鹿島でも。」
「そして会津でも……。」
「日ノ本の人は、本当にお風呂が好きなのですね。」
朝綱は不思議そうな顔をした。
「好き……というより、当たり前のことかと。」
少弐も苦笑する。
「日本では、温泉があれば入るものだからね。」
「旅の疲れを癒やすにも、傷を治すにも役立つ。」
イネスは医師として興味深そうに頷いた。
「確かに、湯治は身体の回復に良いのでしょう。」
朝綱は続ける。
「この黒川温泉は古くから会津の名湯として知られています。」
「湯治に訪れる者も多く、武士だけでなく農民や旅人も利用しております。」
マリアは笑顔で少弐を見た。
「冬明。」
「私、ようやく分かりました。」
「皆さんがお風呂好きなのではありません。」
少弐は首をかしげる。
「どういうこと?」
マリアは楽しそうに答えた。
「日ノ本そのものが、温泉の国なのですね。」
その一言に、一同は思わず笑みをこぼした。
少弐も大きく頷く。
「その表現が、一番しっくりくる。」
「山が多く、火山も多い。」
「だから湯が湧く土地も多いんだ。」
ライラは遠くに立ちのぼる湯煙を眺めながら、小さく呟いた。
「この国では、城にも港にも、そして山奥にも温泉がある……。」
「なるほど、旅人が日本を忘れられなくなる理由が、少し分かった気がします。」




