「相馬から会津へ」
数日の航海の末、一行を乗せたエスペランサは相馬の港へ入った。
港では、相馬家の家臣たちが整然と並び、一行を迎える。
現在の相馬家は、小田氏治の二人いる妹の一人、すみれ姫を正室に迎え、東北における小田家の最前線として奥州南部の守りを担っていた。東国諸将との結び付きも強く、坂東と奥州を結ぶ重要な拠点となっている。
歓迎の宴が終わると、少弐は大掾へ声を掛けた。
「幹康殿、ここから先は頼みます。」
大掾は頷いた。
「船は私が預かろう。」
「異国の船は港でも目立つ。留守にするより、誰かが残って守った方が安心だからな。」
マリアは笑顔で頭を下げた。
「よろしくお願いいたします。」
ライラも礼をする。
「戻るまで、どうか船を。」
「任せておけ。」
大掾は豪快に笑った。
「この港でエスペランサに手を出す者などおらん。」
翌朝、一行は船を降りた。
護衛には相馬武士団から精鋭が選ばれ、十数騎が同行する。
相馬の武士たちは弓と槍を携え、雪国育ちらしい頑丈な馬にまたがっていた。
ライラはその装備を見て感心する。
「九州とも関東とも少し違いますね。」
少弐は頷く。
「ここは奥州だからね。」
「騎馬を活かした戦いに慣れている武士が多い。」
街道を西へ進み、一行は阿武隈の山並みを越え、会津盆地へ入る。
広い田畑の向こうには、若松の城下町が広がっていた。
城門の前では、一人の若武者が待っている。
整った身なりに、兵学館仕込みの堂々とした立ち居振る舞い。
少弐は馬を降り、笑みを浮かべた。
「久しぶりだね、朝綱。」
青年も微笑み、深く一礼する。
「少弐殿、お待ちしておりました。」
この若者こそ、宇都宮朝綱。
父・尚綱から会津総督の任を引き継ぎ、奥州経営の実務を任された兵学館一期生の俊英であった。
朝綱は三人の異国の女性にも礼をする。
「皆様のお噂は、父や結城殿から伺っております。」
「遠路ようこそ会津へ。」
マリアは軽く会釈する。
「こちらこそ、お世話になります。」
イネスは周囲を見回した。
「美しい盆地ですね。」
朝綱は穏やかに微笑む。
「会津は坂東にとって奥州への玄関口です。」
「まずは城でお休みください。」
「それから、伊達家への道筋と、現在の奥州情勢をご説明いたします。」
少弐は満足そうに頷いた。
「頼もしくなったね、朝綱。」
「兵学館を卒業した頃とは見違えた。」
朝綱は少し照れ笑いを浮かべた。
「父上にはまだ及びません。」
「ですが、この会津は必ず守ってみせます。」
そう言って一行は、若き会津総督・宇都宮朝綱の案内で城内へと足を進めた。ここから先はいよいよ、伊達家の待つ米沢への旅が始まるのであった。




