「東洋のユニコーン」
相馬へ向かう船は、黒潮に乗って北へ進んでいた。
神社と寺の違いを語り終えたあと、話題は自然と神道へ移っていく。
ライラが尋ねた。
「神道では、動物も神聖な存在なのですか。」
少弐は頷いた。
「神そのものというより、神の使いとして大切にされることが多い。」
「例えば馬。」
「鹿島神宮では古くから神馬が神に仕える馬として大切にされている。」
「祭礼にも登場するし、武士たちも良馬に恵まれるよう祈願することがある。」
マリアは興味深そうに聞く。
「神に仕える馬……。」
「では鹿はどうでしょう。」
「鹿も同じだよ。」
少弐は答える。
「君たちも奈良で見ただろう。」
「春日大社では、神が白鹿に乗って現れたという伝承がある。」
「だから奈良の鹿は神の使いとして大切にされ、人々も敬意を払っている。」
ライラは思い出したように微笑む。
「あの町中を歩いていた鹿ですね。」
「最初は驚きました。」
「人を恐れていませんでした。」
「昔からそういう土地なんだ。」
少弐は穏やかに笑う。
「そして、一角を持つ聖なる獣となると……。」
「やはり麒麟だろう。」
イネスが口を開く。
「京都や奈良で見た絵の麒麟ですね。」
「ええ。」
「一本角で描かれたものもありました。」
少弐は頷いた。
「もちろん、西洋のユニコーンと同じ生き物ではない。」
「姿も違えば、伝承も違う。」
「けれど、一本角を持ち、聖なる王の世に現れる瑞獣という点では、どこか通じるものがある。」
ライラは静かに考え込む。
「つまり、西洋にはユニコーン。」
「東洋には麒麟。」
「互いによく似た『聖なる一角獣』として語られてきたのですね。」
「少なくとも、私はそう考えている。」
少弐は笑って言った。
「これまで旅をして分かったことをまとめると――」
彼は指を折りながら整理する。
「西洋ではユニコーンの伝説があり、その角は解毒の力を持つと信じられている。」
「東洋では麒麟という一本角の瑞獣が古くから伝えられている。」
「神道では神馬や神鹿のように、神に仕える神聖な動物の考え方もある。」
「だから、日本にユニコーンそのものはいない。」
「しかし、ユニコーンを思わせる文化や信仰は確かに存在する。」
マリアは頷いた。
「だから私たちは、麒麟を調べる意味があったのですね。」
「そういうこと。」
少弐は北の海を眺めた。
「もしユニコーンの伝承が東西でどこかにつながっているのだとしたら、その手掛かりは、こうした似た伝承の中に残っているのかもしれない。」
ライラは航海日誌に書き留めた。
> 「西洋のユニコーンと東洋の麒麟は同じ存在とは言えない。しかし、人々が『聖なる一角獣』を思い描いたという点で、両者は比較する価値がある。」
船は静かに北へ進み、やがて相馬の海が近づき始めていた。




