北方航路という仮説
議論が続く中、少弐の視線は校長室の隅に置かれた大きな地球儀へ向いた。
それは南蛮からもたらされた珍しい品であり、大陸も海も一望できる。
少弐は立ち上がると、地球儀の前へ歩み寄った。
「……いや。」
その一言に、皆が振り向く。
すると陳が、何かを思いついたように目を見開いた。
「皆さん。」
陳も地球儀の前へ進み出る。
彼は左手でデンマーク付近を押さえ、右手で日本――小田のある東国付近を押さえた。
そして、ゆっくりと両者を結ぶ北方へ指を滑らせていく。
「もしや……。」
誰も口を挟まない。
陳はさらに北へ、白く塗られた未知の海へ指を進めた。
「これは北方航路の産物なのではありませんか。」
マリアとライラが顔を見合わせる。
陳は続けた。
「中国では『北から来る一角の角』。西洋では『デンマークよりさらに北から運ばれるユニコーンの角』。」
「どちらも出どころは北。」
少弐が静かに呟く。
「交易路だけが違い、元は同じ品である可能性か。」
陳はうなずいた。
「ええ。しかし、私にはその角の正体までは分かりません。」
彼は指先をさらに北へ滑らせる。
「シベリアに棲む巨大な牛の角なのか。」
少し指をずらす。
「あるいは巨大なセイウチの牙なのか。」
さらに、誰も知らぬ極北の海をなぞる。
「それとも、我々の知らない別の獣なのか。」
四人は地球儀を見つめた。
そこには国名すらほとんど記されていない、白く広がる未知の世界があるだけだった。
マリアが静かに息をつく。
「ポルトガルの船も、そこまでは行っていないわ……。」
ライラも頷く。
「ハンザ商人も産地は明かさない。彼らは『北から来る』ことしか語らないもの。」
少弐は腕を組み、ゆっくりと言った。
「つまり我々は、伝説を追っていたつもりが、北方交易の終着点を追っていたのかもしれない。」
陳は地球儀の頂を軽く叩いた。
「もしこの仮説が正しいなら、答えは中国にもヨーロッパにもありません。」
彼の指は、地図の余白にも等しい極北を指していた。
「答えは、このまだ誰も知らぬ北の世界にあるのかもしれません。」
四人はその未知の地を見つめながら、新たな探索の方向が「伝説」ではなく、「極北とその交易路」にあるのではないかという思いを強くするのだった。




