校長室の華人学者
兵学館の大図書館で半日あまり書物を調べたものの、ユニコーンの正体につながる決定的な記述は見つからなかった。
少弐は本を閉じると、小さく息をつく。
「やはり書物だけでは限界がありますね。」
そう言って校長室へ向かう。
「実は到着前に一通、手紙を出しておきました。」
「手紙?」
マリアが尋ねる。
「ええ。兵学館の校長モンケ先生と、土浦に住む華人の学者、陳殿です。」
校長室へ入ると、モンケが穏やかな笑顔で迎え、その隣には一人の華人が座っていた。
「久しぶりですね、少弐殿。」
「ご無沙汰しております、陳殿。」
ライラは少弐を見て驚く。
「知り合いだったのか。」
少弐は頷いた。
「兵学館にいた頃からお世話になっております。」
陳は柔らかな笑みを浮かべた。
「少弐殿から事情は聞いております。一角獣をお探しとか。」
そう言うと、持参した木箱を机の上へ置く。
最初に取り出したのは、一枚の古い絵だった。
紙いっぱいに描かれた一角竜。
しかし西洋のユニコーンとは似ても似つかない。
長い胴体。
魚の鱗のような体表。
龍を思わせる頭。
一本だけ生えた角。
「これは……。」
マリアは首をかしげた。
「魚なの?」
ライラも困ったように笑う。
「いや、竜にも見える。」
イネスも絵を眺める。
「西洋の馬のようなユニコーンとは全く違いますね。」
陳は頷く。
「中国では一角竜として描かれることもあります。地方や時代によって姿は様々です。」
続いて、小さな陶器の壺を取り出した。
蓋を開けると、中には淡い灰色の粉末が入っている。
「こちらは一角竜の角の粉として伝わる漢方薬です。」
「粉……。」
ライラは覗き込む。
「これでは元の形は分からないな。」
「ええ。」
陳も苦笑する。
「私にも、本当に一角竜の角なのかは分かりません。」
マリアが尋ねる。
「どんな薬なのですか。」
「古い本草書では解毒の効があるとされます。」
その言葉に、三人は同時に顔を見合わせた。
「解毒……。」
マリアが静かに言う。
「西洋でもユニコーンの角は毒を見抜き、毒を消すと伝えられています。」
陳は少し驚いたように目を見開いた。
「それは興味深い。」
モンケも腕を組む。
「東西で姿は大きく異なる。」
少弐は絵と粉末を見比べながら呟いた。
「ですが、不思議なほど共通点があります。」
ライラが指を折りながら数える。
「北方の産物であること。」
イネスが続ける。
「非常に珍しく、高価であること。」
マリアも頷く。
「架空の霊獣の角とされていること。」
最後に少弐が静かに言った。
「そして、解毒の力を持つと信じられていること。」
校長室にしばらく静寂が流れる。
姿は違う。
伝承も異なる。
しかし、**「北方」「一本角」「貴重」「解毒作用」**という共通点だけは、東洋と西洋で不思議なほど一致していた。
その偶然を、誰もただの偶然とは思えずにいた。




