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相常同盟

佐竹軍を退けて間もなく、小田城に北条家から祝使が訪れた。

「相模の氏康様より、戦勝のお祝いにございます。」

使者は祝いの品を差し出し、氏康の祝意を伝える。

酒が振る舞われ、和やかな空気が流れる中、使者は何気なく口を開いた。

「ところで、小田殿は近頃、変わった城をお造りとか。」

氏治は目を細めた。

「ほう。どのような城と聞いておりますか。」

「川をまたぎ、橋とも城ともつかぬ普請とか。櫓が立ち、水門でもあると。」

真壁ら家臣は、思わず顔を見合わせる。

(ずいぶん詳しい。)

氏治は笑みを浮かべた。

「橋のような城にございます。」

使者も負けじと笑う。

「では城のような橋で。」

「いえ。」

氏治は首を振る。

「城のような水門、と申した方が近いでしょう。」

広間に笑いが起こる。

「これは謎掛けですな。」

「完成すれば、きっとお分かりいただけます。」

使者は感心したように頷いた。

「しかし、これほど大掛かりな普請、隠せるものではございませんな。」

氏治も苦笑する。

「ええ。あれほど派手に造れば、嫌でも噂になります。」

「北条まで話が届くのも無理はありません。」

その言葉に使者も大きく笑った。

「さすが小田殿。」

笑いが収まると、使者は姿勢を正した。

「実は氏康様より、もう一つ。」

「近々、千葉家の城にてお会いしたいとのこと。」

「ぜひ会談をお願いしたく存じます。」

氏治は静かに頷く。

「喜んで参りましょう。」

別れ際、氏治は木箱を二つ差し出した。

「返礼にございます。」

一つには、陽光を受けて美しく輝く坂東切子。

もう一つには、土浦で醸された蒸留酒。

「氏康様へお納めください。」

使者は深く頭を下げた。

「必ずお届けいたします。」

やがて七月。

千葉家の城で、小田と北条の会談が開かれた。

挨拶も終わり、盃が巡ると、氏康は真っ直ぐ氏治を見据えた。

「小田殿。」

「佐竹を常陸北部へ押し返し、下野、下総、そして常陸南半をまとめ上げた。」

「今の小田家は、もはや一国人ではない。」

広間が静まり返る。

氏康は率直に言い放つ。

「はっきり申そう。」

「北条にとっても脅威だ。」

氏治は静かに一礼した。

「過分なお言葉にございます。」

「ですが、私はまだ十一歳。」

「北条様に比べれば、ただの童にございます。」

その一言に、氏康は思わず吹き出した。

「……確かにな。」

「童と言われれば、そのとおりだ。」

場の空気が和らぐ。

氏康は盃を傾けながら笑う。

「ならば、童よ。」

「いっそ婚姻せぬか。」

家臣たちが息を呑む。

「氏の字まで同じだ。」

「親子のようなものではないか。」

突然の申し出に、千葉家の重臣たちも目を丸くする。

氏治は少し困ったように笑った。

「ありがたいお話ですが、童ゆえ婚姻はまだ釣り合いませぬ。」

「まずは一人前になってからにございます。」

氏康は豪快に笑う。

「それもそうだ。」

すると氏治は続けた。

「その代わり、と申しては何ですが。」

「同盟のお話は、喜んでお受けいたします。」

「そして、ご縁の証に『氏』の字を頂戴できれば幸いです。」

一瞬、広間が静まり返る。

やがて氏康は膝を打って笑い出した。

「はっはっはっ!」

「面白い!」

「では、小田氏治の『氏』は、この氏康から贈った『氏』ということにしておこう!」

広間は笑いに包まれた。

氏治も深く頭を下げる。

「ありがたく頂戴いたします。」

その日、北条と小田は互いに刃を向けぬことを誓い、坂東の東と北東を結ぶ新たな盟約が結ばれた。

後に人々は、この盟約を――

相常同盟と呼ぶようになるのであった。

この流れなら、氏康が「脅威」と率直に認めたうえで同盟を提案し、最後は「氏」の字の洒落で場が和み、同盟締結へ自然につながります。

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