法隆寺の宝物
興福寺で数日を過ごした後、四人は法隆寺を訪れた。
古くから伝わる寺院だけあって、僧たちは慎重でありながらも、佐野昌綱や興福寺からの紹介状があったため、一行に伝来の宝物を見せてくれた。
長い年月を経た宝物は、どれも大切に箱へ納められている。
角杯。
印材。
飾り細工。
古い記録には、それらを**「麒麟の角」と伝える**ものもあった。
四人は一つ一つを丁寧に観察した。
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イネスは角杯を光にかざした。
「表面は何度も磨かれている……。」
ライラも頷く。
「加工の跡が多い。」
「元の形がほとんど残っていないわ。」
マリアは杯の縁を見つめる。
「これだけ削られていたら、生き物の特徴は分からない。」
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印材も同じだった。
小さく切り出され、四角く整えられている。
磨き込まれた表面からは、もともとの形状を推測することはできなかった。
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宝物を見終えた四人は、境内の一角で腰を下ろした。
少弐が静かに口を開く。
「皆さん、どう思われますか。」
マリアは少し考えてから答えた。
「宝物は確かに存在した。」
「でも、それだけね。」
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イネスも日誌を閉じる。
「材質そのものは残っている。」
「けれど、角杯や印に加工されてしまっているから、どんな動物の角だったのか判断する材料がほとんどない。」
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ライラは腕を組んだ。
「西洋でも同じだった。」
「王侯貴族の宝物になったユニコーンの角も、多くは杯や杖、十字架の装飾に加工されている。」
「だから、本来の姿を調べることが難しいの。」
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少弐は宝物殿を振り返った。
「つまり、ここで分かったのは——。」
マリアが言葉を継ぐ。
「『麒麟の角』と伝えられる品は確かにあった。」
「しかし、それが何の動物だったかを確かめる証拠にはならない。」
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イネスは羊皮紙に結論を書き記す。
> 法隆寺調査・第一報
・麒麟の角と伝えられる宝物は存在する。
・しかし、いずれも加工品であり、原形を失っている。
・材質を目視だけで特定することは困難。
・現段階では、麒麟の角そのものの正体を断定できない。
ライラはゆっくり立ち上がった。
「でも、収穫はある。」
三人が彼女を見る。
「少なくとも、『麒麟の角』という伝承は絵空事ではない。」
「人々は実際に何らかの角を宝物として受け継ぎ、それを麒麟の角と信じていた。」
マリアは微笑んだ。
「ええ。伝説だけを追っていた時より、一歩前進したわ。」
少弐は奈良の地図を広げる。
「次は、法隆寺以外の寺社や古い家に残る伝承も調べてみましょう。同じような品や、加工されていない角そのものが伝わっている場所が見つかれば、比較できるかもしれません。」
四人は法隆寺の五重塔を見上げた。
答えはまだ見つからない。しかし、伝説だけではなく「物」が存在することだけは確かになった。その事実を胸に、一行は奈良での調査をさらに続けることを決めた。




