京の麒麟
新年を迎えた四人は、牛車に揺られて京都へ入った。
迎えを手配していた少弐冬明は、町の中心にある六角堂近くの商家「信濃屋」を今回の調査拠点として借り受けていた。二階には書物を広げられる座敷、一階には荷物や標本を保管する蔵まで備わっている。
「ここなら都の寺社にも、公家屋敷にも歩いて行けます。」
少弐はそう言って笑った。
マリアは窓から六角堂を見上げる。
「ここを基地にしましょう。私たちが探すのは宝物じゃない。"伝説が生まれた理由"よ。」
ライラは机に羊皮紙を広げる。
「麒麟、ユニコーン、一本角の獣……全部を書き出しましょう。」
イネスは羽ペンを取り、
「調査日誌第一号。"京都・麒麟調査"ね。」
と記した。
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それから二週間、四人は毎日のように京都を歩き回った。
寺では僧に古い絵巻を見せてもらう。
公家の蔵では唐から伝わった文献を書き写す。
仏師には麒麟の彫刻について尋ね、絵師には古い下絵を見せてもらう。
唐物商では中国から渡来した香炉や置物を調べた。
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だが、調べれば調べるほど、不思議なことが分かってきた。
麒麟の姿が一定しないのである。
ある絵では鹿に似ている。
別の絵では龍の鱗がある。
牛の尾を持つものもある。
馬のような体格もある。
角も一本だったり二本だったりする。
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マリアが呟いた。
「西洋のユニコーンも同じよ。」
「馬になったり山羊になったり鹿になったり……。」
ライラは頷く。
「つまり皆、本物を見て描いた訳ではない。」
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さらに中国の古典も調べた。
麒麟は仁徳ある王が現れる時に姿を見せる瑞獣。
殺されることはほとんどなく、神聖視されている。
つまり、生物というより象徴だった。
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一方、西洋の記録では少し違う。
ユニコーンは角が薬になる。
角杯になる。
王侯貴族が競って集める。
こちらは"角"そのものに価値があった。
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夕方になると四人は信濃屋へ戻り、毎日情報を整理した。
そして二週間後。
机いっぱいに絵や写本が並べられた。
イネスは調査結果を書き終え、深く息をつく。
「……これで京都中を調べたと言ってもいいわね。」
静かな沈黙が流れた。
最初に口を開いたのは少弐だった。
「皆さん。どう思われますか。」
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マリアは一枚の絵巻を持ち上げる。
「まず分かったことがある。」
「麒麟もユニコーンも姿は一定していない。」
「だから絵だけでは本物を推定できない。」
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ライラが続ける。
「そして、麒麟の角そのものを見たという記録がほとんど無い。」
「ほぼ全てが伝聞。」
「これは西洋でも同じ。」
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イネスは日誌をめくる。
「でも一つだけ共通点がある。」
「誰もが角だけは大事にしている。」
「体の形は違っても、角だけは特別扱いされているの。」
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少弐は腕を組んだ。
「つまり……。」
マリアが頷いた。
「角には実物があった可能性が高い。」
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ライラは地図を広げた。
「なら、私たちが探すべきなのは絵じゃない。」
「角そのもの。」
「角杯。」
「祭器。」
「寺の宝物。」
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イネスも賛成する。
「材質を調べれば分かる。」
「サイなのか。」
「水牛なのか。」
「象なのか。」
「それとも、まだ知られていない動物なのか。」
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少弐は静かに指で奈良を指した。
「京都には文献は多くあります。」
「しかし、千年以上守られてきた古い宝物なら奈良でしょう。」
「法隆寺や東大寺には飛鳥や奈良時代から伝わる品々があります。」
「もし古代の人々が"麒麟の角"として伝えた宝物が残っているなら、京都より奈良にある可能性が高い。」
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マリアは笑みを浮かべた。
「決まりね。」
ライラは荷物をまとめ始める。
「次は奈良。」
イネスは調査日誌を閉じた。
「京都では"伝説"を調べた。」
「次は"証拠"を探しに行きましょう。」
信濃屋の障子の向こうでは、冬の都に夕暮れが静かに訪れていた。四人の探求は、いよいよ古代の宝物が眠る奈良へと向かう。




