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四国巡歴 ― 北辰丸の贈り物

九月。


松山城でしばし休息を取ったマリアたちは、京都や堺へ向かう前に四国をもっと見てみたいと願い出た。


「せっかく四国まで来たのですもの。」


マリアは地図を広げながら微笑む。


「すぐに本州へ渡るのは、少しもったいない気がします。」


那須資忠も笑顔で頷いた。


「でしたら、伊予と讃岐を巡ってみてはいかがでしょう。」


「馬と案内役をお付けします。」


こうして三人は、那須家の家臣数名を供に、四国各地を巡ることになった。


マリアは港や山々、珍しい動植物を観察し、博物学者として記録を残す。


イネスは寺社や城下町、遍路道の風景を一枚一枚丁寧に描き留めた。


ライラは金刀比羅宮をはじめ各地の寺社を訪ね、祭具や仏像、経巻などを見せてもらいながら、日本の信仰について熱心に学んでいった。


旅の終わりには、三人とも四国という島へ深い愛着を抱くようになっていた。



---


数日後、一行は再び「希望エスペランサ」へ戻る。


次なる目的地は、造船特区として発展を始めた土佐・中村であった。


港へ船が入ると、一人の青年武将が笑顔で出迎える。


大掾義康である。


「ようこそ、中村へ。」


「兵学館海軍課程と水軍士官学校を代表して歓迎いたします。」


港の奥では、建設途中の船渠や造船所が忙しく動き、若い士官候補生たちが号令に合わせて訓練を行っていた。


マリアは目を輝かせる。


「もうここまで出来ているの。」


義康は誇らしげに頷いた。


「まだ始まったばかりですが、いずれ日の本一の海軍学校にするつもりです。」


一通り案内を終えると、義康は港へ係留された一隻の船へ三人を案内した。


見覚えのある船影だった。


「……北辰丸。」


マリアが思わず呟く。


義康は笑みを浮かべる。


「覚えておられましたか。」


「この船を日本まで無事に運んでくださったこと、心より感謝しております。」


マリアは首を振る。


「当然の仕事をしただけです。」


しかし義康は静かに続けた。


「だからこそ、お礼をしたいのです。」


「この北辰丸は、あなたに差し上げます。」


三人は驚いて顔を見合わせた。


「えっ……?」


「本当に?」


義康は力強く頷く。


「はい。」


「我らは新しい船を次々と建造しております。」


「しかし、この船はあなたが日本へ連れて来てくださった船でもあります。」


「これからは、あなたの船として世界を旅していただきたい。」


マリアはしばらく言葉を失っていた。


やがて静かに頭を下げる。


「……ありがとうございます。」


「大切に使わせていただきます。」


義康は少し照れたように笑った。


「その代わり、一つお願いがあります。」


「何でしょう。」


「たまには日の本へ戻ってきてください。」


「そして、世界の冒険譚を士官学校の若者たちへ聞かせていただければ、それで十分です。」


イネスが微笑む。


「学生たちへの講義ね。」


ライラも笑う。


「それなら喜んで。」


マリアは義康へ右手を差し出した。


「約束します。」


「また日本へ戻ってきます。」


「その時は、新しい海、新しい国、そして新しい発見を皆さんへお話ししましょう。」


義康はその手をしっかりと握り返した。


「楽しみにしております。」


こうして北辰丸は正式にマリアの船となった。


それは単なる一隻の船ではない。


坂東とポルトガル、そして未来の冒険を結ぶ友情の証でもあった。

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