十月 ― 琉球出航
やがて十月。
台風の季節も過ぎ、一行はいよいよ琉球を発つ日を迎えた。
目指すは伊予・松山。
船員たちは最後の積み込みに追われ、少弐冬明は自ら船倉へ降りて積荷を一つ一つ確認していく。
今井宗及が集めた南海の品々。
香木、香辛料、薬材、染料、中国陶磁器。
それらに混じって、博物学のために選び抜かれた珍品も慎重に箱へ収められていた。
積み込みを見届けると、少弐はマリア、ライラ、イネスの三人を呼んだ。
「皆さんに、お見せしたいものがあります。」
船倉の奥から家臣が長い木箱を運び出す。
最初に蓋が開かれたのは、犀の角であった。
黒褐色の堂々とした一本角である。
マリアは朝鮮で写した本草書を開き、挿絵と見比べる。
「……本に描かれていた犀、そのものね。」
ライラはそっと表面を撫でる。
「思ったより滑らかで、螺旋もない。」
続いて運ばれたのは、象牙である。
美しい弧を描く大きな牙は、朝鮮や琉球で見てきた象牙細工の素材そのものであった。
イネスは感心したように呟く。
「これだけ大きければ、彫刻にも細工にも向いているわ。」
そして少弐は最後の箱を開かせた。
そこには、白く長く伸びた牙が何本も収められていた。
「これは……。」
マリアが目を見開く。
少弐は説明する。
「セイウチの牙です。」
「先日、琉球王へ献上した儀仗にも、この牙が使われていました。」
「その材料として用意していた在庫を、宗及殿が譲ってくださいました。」
一本を持ち上げると、その大きさに三人は思わず息を呑む。
ライラは三つを並べて見比べる。
「犀の角。」
「象牙。」
「そしてセイウチの牙。」
マリアは静かに頷いた。
「どれも市場では珍品として扱われる。」
「けれど、それぞれまったく別の動物なのね。」
少弐は微笑んだ。
「氏治様から伝言があります。」
「『ユニコーンの手掛かりになるかもしれぬ。持ち帰って存分に調べよ。』」
イネスは早速、旅日記へ三つを並べた挿絵を描き始める。
牙や角の長さ、曲がり方、表面の質感まで、細かく筆を走らせていく。
マリアは犀の角と象牙を見つめながら静かに言った。
「これでまた一歩、謎に近づいた。」
「けれど……。」
彼女の脳裏には、ヨーロッパで見た**螺旋状にねじれた『ユニコーンの角』**が浮かんでいた。
目の前の三つは、どれもそれとは異なる。
マリアは小さく呟く。
「まだ、本当の答えは見つかっていない。」
穏やかな秋風を受け、「希望」は帆をいっぱいに広げる。
船首は北を向き、伊予・松山への帰路についた。
しかし船倉には、ユニコーンの謎を解くための新たな手掛かりが、静かに積み込まれていた。




