琉球滞在 ― 南海の王国
献上品と国書を受け取った琉球王は、小田家の誠意に深い関心を示した。
会見の終わり、少弐冬明はもう一つ願いを申し出る。
「恐れながらお願いがございます。」
「今は台風の季節にございます。無理に出航すれば船団にも危険が及びましょう。」
「幸い、今回が我らにとって初めての正式な使節にございます。」
「しばらく王国に滞在し、貴国の歴史や文化を学ばせていただければ幸いに存じます。」
王はしばらく考えたのち、穏やかに頷いた。
「よかろう。」
「琉球を知ってもらうこともまた友好である。」
もちろん、案内役には王府の役人が選ばれた。
半ばは歓迎のため、そして半ばは外国使節を見守るためでもあった。
少弐もその意図を理解し、笑みを浮かべて答えた。
「それで十分にございます。」
翌日から一行は案内役とともに各地を巡る。
首里城では王国の政治と外交について説明を受け、
港では中国、東南アジア、日本から集まる交易船を見学した。
さらに古い城跡や、かつて王国統一をめぐって争われた古戦場にも足を運ぶ。
マリアたちは異国の風景を見て驚き、
イネスは城壁や門、鮮やかな瓦屋根を一枚一枚旅行記へ描き留めていった。
一方、その間に少弐は今井宗及を密かに訪ねる。
「宗及殿。」
「せっかく琉球へ参ったのだ。」
「帰り船は空にしたくない。」
宗及は笑みを浮かべる。
「承知しております。」
「すでに南海より集まる品々を倉へ集積しております。」
少弐は倉を巡り、一つ一つ品を吟味していく。
香木。
香辛料。
染料。
薬種。
南方の珍獣の素材。
中国やシャム、マラッカ、ジャワから届いた工芸品。
さらに象牙や犀の角など、南海交易ならではの珍品も並べられていた。
少弐は価格だけでなく、兵学館で研究価値のあるもの、博物庫に収蔵すべきもの、寺社へ奉納すべきものを慎重に選び分けていく。
宗及は感心したように言う。
「氏治殿は利益だけをご覧になる方ではありませんな。」
少弐は微笑んだ。
「ええ。」
「我が主は、『珍しい物は富を生むだけでなく、知識も生む』と申しております。」
こうして一行は台風の季節を利用して琉球王国への理解を深める一方、帰国後の交易と研究に役立つ南海の品々を着々と積み込んでいくのであった。




