坊津沖 ― 希望への乗船
数日後。
少弐一行は島津家への礼を尽くし、坊津を後にした。
港を出て間もなく、沖合に一隻の大型船が姿を現す。
帆には坂東の紋。
その傍らには、和式洲本艦隊の船々が護衛につく。
「松永殿だ。」
少弐が呟くと、両船はゆっくりと横付けされた。
渡し板が架けられ、一人の男が豪快に笑いながら乗り移ってくる。
松永久秀であった。
「はっはっは!」
「少弐殿、敵中で酒を食らうとは、実にあっぱれ!」
「肝が据わっておるわ!」
少弐も思わず笑みを浮かべる。
「歓待を受けた以上、礼を尽くしたまでです。」
「それに、敵か味方かは明日のこと。今日の席では良き客でありました。」
「相変わらず生真面目よ。」
松永は肩を叩きながら笑った。
「その生真面目さが氏治殿に重用される理由でもあるがな。」
二人は顔を見合わせ、大きく笑う。
その様子を、マリア、ライラ、イネスの三人は少し離れた場所から不思議そうに眺めていた。
ライラが小声で尋ねる。
「昨日まで島津のお城でお酒を飲んでいたのに……。」
イネスも首をかしげる。
「そして今日は何事もなかったように笑っている。」
マリアは苦笑する。
「東洋の武士というのは、本当に不思議ね。」
それが聞こえたのか、松永は振り返って笑った。
「戦は戦、酒は酒よ。」
「敵とも杯を交わし、明日には槍を向けることもある。」
少弐も静かに頷く。
「互いに礼を尽くすことと、国の利を守ることは別なのです。」
三人は顔を見合わせた。
西洋の価値観とはどこか異なる武士たちの振る舞いに、驚きと興味を覚える。
やがて積荷の確認も終わり、松永は「希望」へ乗り移った。
帆が一斉に張られ、和式洲本艦隊が周囲を固める。
船首はゆっくりと南西を向く。
目指すは、南海に栄える交易王国――琉球。
新たな海路を切り開く船団は、穏やかな夏の海を一路南へと進み始めた。




