坊津 ― 少弐の見立て
島津家の招きを受けた少弐一行は、その厚意に甘え、数日間坊津へ滞在することとなった。
歓待を受けるだけでなく、城下や港を見学し、島津家の重臣たちとも幾度となく語り合う。
少弐には一つの考えがあった。
坂東の小田家にとって、九州の情報はあまりにも少ない。
かつて鹿島政道が密かに種子島銃を買い求めたことはあったが、それ以外は商人から断片的な情報を得る程度であった。
ならば、自らの目で見て確かめるしかない。
島津家の家臣たちは進んで城下や鍛冶場、兵の稽古場を案内した。
少弐は特に武備へ目を向ける。
種子島銃の導入に積極的で、新しい技術を取り入れる柔軟さがある。
しかし同時に、刀や槍の鍛錬も決して疎かにしていない。
鉄砲一辺倒ではなく、従来の武芸との両立を図っていることが見て取れた。
その夜、宿へ戻った少弐は静かに旅日記へ筆を走らせる。
> 「島津は新旧をよく調和させる。」
> 「新しきを取り入れながらも、古き強みを失わぬ。」
さらに家臣たちとの応対も印象に残った。
当主のみならず、一族や重臣たちも自らの考えを持ち、それぞれが役目を果たしている。
その様子を見て、少弐は思わず大友家を思い浮かべた。
大友は博多や豊後を擁し、南蛮交易による富にも恵まれている。
現時点では九州最大級の勢力であることに疑いはない。
しかし、その一方で家中には対立や不安定さも抱えてきた。
それに対し島津家は、家中の結束が強く、着実に力を蓄えているように映った。
少弐は独り言のように呟く。
「今は大友が強い。」
「だが……。」
彼は坊津の港を見下ろした。
「この家中の勢いは、いずれ九州の勢力図を塗り替えるかもしれぬ。」
もちろん、それがいつ、どのような形で実現するかは誰にも分からない。
しかし外交使節として各地を巡る少弐にとって、勢力の大きさだけでなく、家中のまとまりや将来性を見極めることもまた重要な務めであった。
彼はその見立てを詳しく書状にまとめ、後日、小田氏治へ送ることを決めるのであった。




