長崎 ― 氏治からの新たな命
長崎では、朝鮮より持ち帰った交易品の積み替えが着々と進められていた。
その間、マリアたちは港町を歩き、異国の商人たちと言葉を交わし、旅の日誌をまとめるなど、それぞれ穏やかな時間を過ごしていた。
そんな折、港に一艘の和船が入る。
船から降り立ったのは、松永久秀であった。
「少弐殿。」
松永は笑みを浮かべながら近づく。
「氏治殿より預かった書状を届けに参った。」
少弐冬明はその場で封を切り、静かに目を通す。
やがて顔を上げると、小さく息をついた。
「……なるほど。」
マリアが尋ねる。
「何かあったのですか。」
少弐は書状をたたみ、皆へ告げた。
「当初の予定では、坊津を最後の寄港地として伊予へ戻るはずでした。」
「ですが氏治様は予定を改められました。」
「堺の豪商・今井宗及殿の尽力により、琉球王府との渡りがついたそうです。」
ライラの目が輝く。
「琉球……。」
少弐は続ける。
「氏治様の命です。」
「坊津で補給を終えたのち、そのまま琉球へ向かい、正式な使節として交易と友好を結ぶように、と。」
松永は腕を組みながら笑う。
「まったく、氏治殿は手が早い。」
「朝鮮が終われば南へとは思っていたが、もう話をまとめていたとはな。」
そして少弐へ向き直る。
「私は一足先に坊津へ向かう。」
「長崎で集められるだけの献上品を集めておく。」
「琉球は交易の国だ。手土産が立派であればあるほど、話も弾むだろう。」
少弐は深く頷いた。
「お願いいたします。」
松永は笑みを浮かべたまま踵を返す。
「任せておけ。」
「氏治殿の名に恥じぬ、とびきり上等な品を揃えて坊津で待っている。」
こうして一行は、新たな目的地――南海の交易王国・琉球へ向け、旅程を変更することとなった。




