漢城からの帰路 ― 朝鮮交易の始まり
国王への謁見と王室書庫での調査を終えた一行は、再び港へ戻った。
少弐冬明は、鹿島商館朝鮮支部の支配人と宗氏の担当者を集め、最初の本格的な交易を開始する。
これまで鹿島家は、朝鮮商人から倉や商館を借り受ける形で細々と商いを続けてきたため、商館には少なからぬ交易品が蓄えられていた。
さらに博多で積み込んできた荷も加えられる。
南蛮渡来の香料。
鼈甲細工。
象牙工芸。
砂糖。
ガラス器。
鉄器や刀剣。
それらを朝鮮側へ放出すると、市場は大いに賑わった。
代わって鹿島家が買い集めたのは、
高麗人参
良質な紙
墨
朝鮮陶磁器
書籍・写本
薬材
銅・鉄製品
上質な麻布・絹織物
などであった。
加えて、王室より許された写本も大切に荷へ納められる。
麒麟。
犀。
象。
東洋博物に関する貴重な記録は、兵学館と鹿島博物庫にとって何にも代え難い財産となる。
鹿島商館朝鮮支部には、今後も継続して交易を行うための商品と銀を残し、支配人へ少弐は命じた。
「これより先は、一度限りの商いではない。」
「宗氏ともよく協力し、朝鮮との信用を積み重ねよ。」
支配人は深く頭を下げる。
「はっ。必ずや鹿島の名に恥じぬ商いをいたします。」
積荷を新たに積み替えたエストレラ・ポラール号は港を離れた。
マリアは静かに漢城の方角を振り返る。
「ユニコーンの謎は解けなかった。でも、東洋には麒麟という神獣がいて、その背景には実在の動物たちがいることが分かった。」
ライラは笑みを浮かべる。
「次は琉球ね。朝鮮では文献を見た。今度は実物を見に行きましょう。」
イネスも頷く。
「犀の角、象牙……そして、いつか本物の『ユニコーンの角』も。」
夏の季節風を受け、船は静かに南へと針路を変える。
次なる目的地は、東シナ海交易の要衝――長崎であった。




