漢城王室書庫 ― 麟獣の記録
数日にわたる調査の末、三人はユニコーンそのものについて記した文献を見つけることはできなかった。
しかし、その代わりに東洋で古くから語り継がれる麒麟について、数多くの記録を目にする。
中国の古典、博物書、本草書には、それぞれ少しずつ異なる姿で麒麟が描かれていた。
ある書には、
> 「鹿の身に牛の尾、額に角を持ち、全身を鱗が覆う。」
とあり、
別の書には、
> 「二本の角を持つ。」
と記されている。
さらに、
> 「聖王の世に現れる瑞獣。」
> 「草木を踏み折ることなく歩み、生き物を傷つけない。」
という共通した伝承も記されていた。
マリアは何冊もの書を見比べながら言う。
「姿は一定ではないのね。」
ライラは挿絵を指差す。
「でも、どれも鹿に近い体つきをしています。」
イネスは隣の本草書を開く。
「こちらには犀の記述があります。」
そこには厚い皮膚を持ち、一本の角を備えた実在の動物が描かれていた。
さらに象についての書も見つかる。
巨大な体躯と長い鼻、そして貴重な象牙について詳しく記されていた。
三人は机の上へ、
麒麟の図
犀の図
象の図
を並べて見比べた。
マリアは静かに呟く。
「麒麟は実在の獣ではなく、人々が知る動物の特徴を重ね合わせて生まれた神獣なのかもしれない。」
ライラも頷く。
「鹿を土台に、角や鱗など神聖な象徴が加えられたようにも見えます。」
少弐は三人の議論を聞き、礼曹の役人へ頭を下げた。
「もし許されるならば、これらの書のうち、麒麟、犀、象、ならびに博物に関する部分を写本としていただけないでしょうか。」
役人は書を確かめ、穏やかに微笑んだ。
「いずれも秘蔵の軍書ではなく、学問のための書でございます。」
「朝鮮と坂東の友好の証として、写本をお作りいたしましょう。」
数日後、丁寧な筆致で書き写された数冊の写本が完成した。
それは麒麟の伝承だけでなく、犀や象など南方の珍獣についても記した、貴重な博物資料であった。
マリアは写本を大切に抱えながら微笑む。
「ユニコーンの答えは見つからなかった。でも、この旅は確実に一歩前へ進んだわ。」
東洋の神獣・麒麟と、その背景にある実在の動物たち――。
この写本は後に、ユニコーン伝説の謎を解く重要な手掛かりとなるのであった。




