朝鮮への正式な使節
対馬を発った一行は、宗氏の案内により朝鮮南岸へ入港した。
これまで鹿島家は、朝鮮商人から倉や商館を借り受ける形で細々と交易を続けてきたが、それはあくまで私的な商いであり、朝鮮王朝から正式に認められたものではなかった。
しかし今回は違う。
宗氏より正式な割印を授かり、朝鮮側も正規の使節として迎え入れたのである。
港では地方官が少弐冬明を迎え、宗氏の書状を確認すると丁重に一礼した。
「これよりは正式な使節としてお迎えいたします。」
少弐も深く礼を返す。
「坂東小田家当主・小田氏治より、貴国王陛下への国書を携えて参りました。」
続いて献上品が運び込まれる。
艶やかに磨かれた象牙の香箱。
南海よりもたらされた貴重な珍香(沈香)。
さらに、西方でも高級香辛料として珍重されるカルダモン。
地方官は目を見張った。
「これは……。」
香箱の細工を手に取り、沈香の香りを確かめる。
「いずれも大変珍しい品にございます。」
少弐は静かに答えた。
「遠き南方よりもたらされた品々です。我が主は、貴国との末永い友好と交易を願っております。」
地方官は慎重に頷いた。
「国書と献上品は直ちに漢城へ届け、朝廷へ奏上いたします。」
「しばらく当地の客館にご滞在ください。王命が下れば、正式にご案内いたします。」
その夜、客館でマリアは静かに窓の外を眺めていた。
「王に会えるかしら。」
少弐は穏やかに笑う。
「焦ることはありません。外交とは、待つこともまた務めです。」
数日後、漢城から早馬が到着する。
朝廷は、小田氏治からの国書と南方の珍品に深い関心を示し、
「使節を漢城へ召し、国王への謁見を許す」
との王命が下された。
こうして一行は、朝鮮王朝の都・漢城へ向かうこととなる。




