博多館 ― ユニコーンの角
博多市中の見聞を終えた一行は、鹿島館博多館へと戻った。
応接の間に通されると、少弐冬明は笑みを浮かべながらマリアへ向き直る。
「船の上で聞いたユニコーンの話が気になっておりましてな。もし差し支えなければ、お聞かせ願えませんか。」
マリアは少し考え、小さく頷いた。
「詳しいことは、依頼人との約束もあるのでお話しできません。でも、話せる範囲なら。」
ライラとイネスも興味深そうに腰を下ろす。
「実は、とあるポルトガルの名門貴族から依頼を受けています。」
「最近、ポルトガルやスペインでは『ユニコーンの角』と称する高価な品が数多く流通しています。しかし、その中には本物ではないと思われる品も少なくありません。」
少弐は腕を組む。
「偽物を見分ける仕事ですか。」
「ええ。ただ、奇妙なのです。」
マリアは続けた。
「ヨーロッパで本物とされるユニコーンの角は、神聖ローマ帝国北部やデンマーク王国など、北方の国々からもたらされることが多いのです。」
「調査のため、私たちも実物を見せてもらいました。」
「どのような物なのです?」と少弐が尋ねる。
マリアは両手を大きく広げる。
「長さは人の背丈ほど、ものによっては小舟の櫂ほどもあります。」
「しかも真っすぐではありません。全体が美しく螺旋を描いているのです。」
イネスが補足する。
「白に近い象牙色で、とても一本の角とは思えないほど見事でした。」
ライラも頷いた。
「貴族たちは毒を見抜き、病を癒やす神聖な力があると信じています。」
少弐は感心したように息を漏らす。
「なるほど……しかし、そのような立派な角を持つ獣なら、もっと知られていてもよさそうなものですな。」
「そこが謎なのです。」
マリアは静かに答えた。
「市場には同じ『ユニコーンの角』として、インドの獣の角や、別の動物の牙まで並んでいます。」
「どれも高価ですが、形も材質もまるで違う。」
「本物はいったい何なのか──それを調べるのが、私たちの旅の目的なのです。」
部屋にしばし静寂が流れる。
少弐はゆっくりと頷き、どこか楽しそうに笑った。
「それは面白い。」
「ならば日ノ本にも、何か手掛かりがあるやもしれませぬ。」
「奈良には麒麟の伝承があり、北方には珍しい海獣の牙が伝わるという話も耳にします。もし皆様がよろしければ、我らもその謎解きに力を貸しましょう。」
マリアたちは顔を見合わせ、小さく微笑んだ。
ユニコーンを巡る旅は、思いがけず東の国で新たな手掛かりを得ようとしていた。




