博多のひととき
府内での会見を終えた少弐たちは、急ぎ博多へ戻った。
対馬、そして朝鮮への航海を控えていたものの、氏治からは一つだけ指示を受けていた。
「急ぐ旅ほど、一度足を止めよ。」
その言葉どおり、一行は数日だけ博多へ滞在することにした。
エスペランサは鹿島商館へ横付けされ、補給と積荷の確認が進められる。
一方で少弐は珍しく政務から離れ、マリア、ライラ、そして船医のイネス・ロドリゲスとともに博多の町を歩いていた。
「船の上ばかりでは息が詰まるでしょう。」
少弐がそう言うと、マリアは嬉しそうに笑う。
「それじゃあ、今日は船長じゃなくて旅人ね。」
ライラも笑って頷いた。
「賛成。」
イネスは薬籠を肩に掛けながら、露店へ目を向ける。
「薬草屋がある……。」
彼女はさっそく店先へ近づき、日本の薬草や乾燥した生薬を熱心に眺め始めた。
「これは?」
「甘草です。」
「こちらは当帰。」
店主の説明を受けながら、イネスは手帳へ次々と書き留めていく。
「西洋にも似た薬はありますが、使い方が違うのですね。」
少弐は苦笑した。
「医者というのは、どこの国でも勉強熱心なのだな。」
「命を預かる仕事ですから。」
イネスは照れくさそうに微笑む。
その間、マリアとライラは港町を興味深そうに見て回っていた。
南蛮人、中国人、日本人。
様々な言葉が飛び交い、香辛料や絹、陶器、鉄器が並ぶ市場は、まさに国際都市そのものだった。
「博多って、本当にいろいろな国の人がいるのね。」
ライラが感心すると、少弐は頷く。
「西国最大級の港だからな。」
「ここへ来れば世界の品が集まる。」
マリアは笑顔で振り返った。
「だからあなたたちは海へ目を向けたのね。」
「戦だけでは国は豊かにならない。」
少弐は静かに答えた。
「交易があるから、人も物も集まる。」
四人は市場で菓子を味わい、茶を飲み、博多の町をゆっくりと歩いた。
出航前の束の間の休息。
それは長い航海を前にした、心安らぐひとときとなった。




