博多再集結 ― 朝鮮への船出
北辰丸は豊後水道を抜けると、順調な航海を続け、数日の後に博多湾へ姿を現した。
港へ入ると、遠くから見慣れた巨体が目に入る。
補給母艦――**希望**である。
巨大な船体は博多の鹿島商館前へ静かに係留され、その周囲では荷役が絶え間なく続いていた。
「戻られました!」
桟橋で待っていたライラが笑顔で手を振る。
少弐とマリアが船を降りると、ライラは早速報告を始めた。
「補給は必要最低限だけ済ませたわ。」
「食糧と真水、帆布、それから船材を補充した程度よ。」
「その代わり、鹿島商館から朝鮮向けの交易品を積み込んでいるところ。」
少弐は積荷へ目を向けた。
商館の倉庫からは次々と荷箱が運び出され、滑車とクレーンによってエスペランサの船倉へ収められていく。
積まれているのは、坂東から運ばれてきた鉄製品、漆器、和紙、絹織物、陶器、酒、薬、刃物など、高値で取引される品々であった。
「朝鮮では鉄器や和紙の引き合いが強いそうよ。」
ライラが帳簿を閉じながら言う。
「向こうでは銅や高麗人参、それに良質な木綿も期待できるわ。」
少弐は満足そうに頷いた。
「準備は万全だな。」
マリアも微笑む。
「府内へ向かっている間に、こちらも滞りなく進めてくれたようね。」
ライラは肩をすくめた。
「船長代理なんだから当然でしょう?」
三人は顔を見合わせ、小さく笑った。
一方、北辰丸もエスペランサの隣へ係留される。
長旅を終えた船員たちは帆を畳み、船底を点検し、傷んだ索を取り替え始めた。
少弐は船員たちへ向き直る。
「諸君、まずは休養を取れ。」
「出航を急ぐ旅ではあるが、人も船も休ませねば良い航海はできん。」
その言葉に船員たちは安堵の表情を浮かべる。
博多は鹿島商館もあり、補給にも修繕にも最適な港だった。
数日間は英気を養い、船を整える。
そして次なる目的地は――海を越えた朝鮮。
少弐は夕暮れの港を眺めながら静かに呟いた。
「いよいよ異国への航海か。」
マリアは潮風を受けながら微笑む。
「日本を知る旅は終わったわ。」
「ここからは、新しい世界への旅が始まるのね。」
博多港では二隻の船が静かに並び、朝鮮への出航の日を待っていた。




