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二日目の朝 ― 立ち上る炊煙

夜襲は失敗に終わった。

橋城を揺さぶることもできず、別働隊も迂回路や渡河点を見つけられないまま夜が明ける。

恋瀬川には朝靄が漂い、その中に細かな霧雨が静かに降っていた。

氏治は橋城の櫓から湿った風を受け、空を見上げる。

「……雨になる。」

その言葉どおり、空気には土と雨の匂いが混じり始めていた。

やがて対岸の佐竹陣から、一本、また一本と白い煙が立ち上る。

炊煙だった。

やがてそれは前線から本陣まで無数に広がり、佐竹全軍が一斉に朝餉の支度を始めたことが分かる。

濡れた薪が白煙を上げ、霧雨と混じり合って陣全体を霞ませていく。

真壁幹久が目を細めた。

「昨夜の夜襲で兵も疲れております。まずは腹を満たすつもりでしょう。」

宍戸政繁は煙の量を見ながら頷く。

「兵だけではありませぬ。火縄も乾かし、鎧も温めておりますな。」

氏治は静かに対岸を見つめ続けた。

「夜襲をした翌朝に、全軍が一斉に炊事をする……。」

少し考えた後、小さく笑う。

「休むためではない。」

「と申されますと。」

「腹を満たし、体を温め、兵を整えてから動く。」

氏治はゆっくりと蜈蚣切りの柄に手を添えた。

「今日、勝負を仕掛けてくる。」

その頃、佐竹本陣では将たちが地図を囲んでいた。

「橋城は堅い。しかし、この霧雨なら鉄砲も昨夜ほどは冴えまい。」

「兵には十分食わせろ。」

「正午近く、一気に渡河を試みる。」

将の命が各隊へ伝わる。

兵たちは温かな粥と汁を口にし、濡れた体を温めながら静かに槍を取り直した。

霧雨は止まない。

恋瀬川は灰色の空を映し、橋城もまた静かに敵を待っている。

そして氏治は、近づきつつある決戦の時を感じながら、静かに命じた。

「全軍、朝餉を急げ。兵を休ませよ。」

「敵は正午に来る。」

橋城の鐘が静かに鳴り響き、小田軍もまた、それぞれの持ち場で最後の備えを整え始めた。

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