府内館の会談
府内館へ案内された少弐冬明は、礼を尽くして上座へ進んだ。
正面には、豊後の主・大友宗麟が座している。
形式どおりの挨拶が終わるや否や、宗麟は待ちきれなかったように身を乗り出した。
「細かな前置きはよい。早速、本題に入ろう。」
家臣が一通の文書を広げる。
そこには、小田家が提示した条件――
坂東ガレオン十五隻の譲渡と引き換えに、大友家は対馬・五島の小田家への帰属を認める。
その文言が整然と記されていた。
宗麟は筆を取り、迷うことなく署名と花押を記す。
「わしは異存はない。急ぎ調印を済ませよう。」
少弐も氏治から託された印判を押し、双方の使者が文書を確認する。
これにより、小田と大友の間で新たな盟約が成立した。
しかし宗麟はそこで話を終えなかった。
「冬明殿。」
「はっ。」
「この条件だけでは、小田殿に借りを作るばかりだ。」
宗麟は新たな書付を家臣へ命じて持ってこさせた。
「博多ならびに長崎における交易において、小田家の商船を優遇する。入港、荷揚げ、市場での取引、いずれも他国より便宜を図る。」
少弐は一瞬だけ目を見開いた。
かつて少弐家と大友家は幾度も争った間柄である。
その大友が、小田家の使者である自分にここまで厚遇するとは思っていなかった。
(……氏治様の名が、それほど西国にも響いているのか。)
宗麟は少弐の胸中を見透かしたように笑う。
「敵であった家だからこそ分かる。今の小田と争う理由はない。むしろ交易を盛んにしたほうが互いの利益になる。」
少弐は静かに頭を下げた。
「宗麟公のご厚意、確かに氏治様へお伝えいたします。」
すると宗麟は楽しげに尋ねる。
「ところで、譲渡される坂東ガレオンだが……。」
「はい。」
「まさか空船ではあるまい?」
その言葉に少弐は微笑んだ。
「もちろんでございます。坂東の織物、鉄製品、火器、漆器、紙、薬、酒など、交易品を満載した状態でお引き渡しいたします。」
宗麟は思わず膝を打った。
「それは実にありがたい!」
広間にも安堵した笑みが広がる。
十五隻もの大型交易船だけでも莫大な価値がある。
そこへ積荷まで付くとなれば、大友家にとっては九州交易を大きく飛躍させる好機となる。
和やかな空気が流れたところで、少弐は姿勢を正した。
「宗麟公。こちらからも、一つお願いがございます。」
「申してみよ。」
「坂東は東国の情勢には明るくとも、西国の動きは宗麟公ほどには把握しておりません。」
少弐は真っ直ぐ宗麟を見つめた。
「九州、そして中国地方の最新情勢について、ご教示いただけませんでしょうか。」
宗麟は頷き、地図を広げるよう家臣へ命じた。
「よかろう。西国の今を、余すところなく話そう。」
広間には九州・中国地方の大きな地図が広げられ、東国の使者と西国の雄による、新たな戦略談義が始まろうとしていた。




