府内への入城
九月初旬に鹿島を出港した北辰丸は、十五日間に及ぶ航海を経て、豊後・府内の港へと姿を現した。
幸いにも大きな時化に遭うことなく、台風を避けながら瀬戸内を西へ進み、九月半ば、無事に大友領へ入港する。
港ではすでに大友方の役人や奉行衆が待ち受けていた。
「小田殿よりお越しの使者、少弐冬明殿にございますな。」
「左様。小田家当主、氏治公の書状を携え参った。」
役人は深く一礼すると、丁重に一行を迎え入れた。
「宗麟様も、お待ちでございます。どうぞ府内館へ。」
北辰丸は港へ係留され、船員たちは荷の確認を始める。
少弐は刀を佩き、使節として正装に身を整える。
その傍らには、護衛としてマリアが控えていた。
ライラほど剣の腕は立たないものの、マリアもポルトガルで護身術や剣術の手ほどきを受けており、細身の片手剣を静かに腰へ下げている。
「護衛は私が務めます。」
「頼りにしている。」
短く言葉を交わし、一行は府内館へ向かった。
その道中、町はいつになく賑わっていた。
「見ろ、小田の使者だ。」
「東国から来たという……。」
「隣の異国の女性は南蛮人か。」
「美しいものだ……。」
沿道には商人や町人、武士までもが足を止め、小田家の使者と南蛮人の一行を一目見ようと集まる。
東国で急速に勢力を伸ばした小田家の名は、すでに九州にも広く知れ渡っていた。
ましてや、その使者が若き少弐冬明であり、異国の女性を伴っているとなれば、人々の関心を集めるのも無理はなかった。
やがて一行は大友家の政庁、府内館へと到着する。
厳かな広間には家臣たちが居並び、その最奥には豊後の主、大友宗麟が静かに座していた。
少弐はゆっくりと進み出ると、深く一礼する。
「小田家当主、小田氏治公の名代として参上いたしました。少弐冬明にございます。」
――永禄十二年(1569年)九月半ば。
東国の新興勢力・小田家と、西国の雄・大友家との歴史的な対面が、いま始まろうとしていた。




