伊予沖の乗り換え
伊予沖で船団は静かに停船した。
少弐冬明は海図をたたみ、一同へ向き直る。
「これより先は豊後府内に近い。大友とは友好国だが、余計な警戒は招きたくない。ここからは北辰丸で寄港する。」
巨大な移動母艦・**希望**の甲板では、すでに乗り換えの準備が始まっていた。
帆柱の間に設けられた大型クレーンが軋みを上げる。
「クレーン、降ろせ!」
船員たちの掛け声とともに滑車が回り、頑丈な吊り索に支えられた北辰丸がゆっくりと海面へ降ろされていく。
船底が静かに波へ触れると、小舟とは思えぬ安定した姿で海に浮かんだ。
続いて荷箱や航海用具、書状の入った長持ちが次々とクレーンで吊り下ろされ、北辰丸へ積み込まれていく。
その間、マリアはライラを呼び寄せた。
「ライラ、ここから先、エスペランサはあなたに任せるわ。」
「任せて。」
マリアは頷き、一人の女性を前へ招く。
「こちらはイネス・ロドリゲス。船医であり、副操縦士よ。」
落ち着いた雰囲気の女性は一礼した。
「よろしくお願いいたします。」
少弐は軽く頭を下げる。
「初めてお会いするな。」
マリアは微笑みながら答えた。
「ずっと治療に当たっていたから紹介する機会がなかったの。最近は東洋医学にも興味を持って、日本の薬草や鍼を勉強しているのよ。」
「西洋と東洋、両方の医学を学べば、多くの命を救えるでしょう。」
少弐の言葉にイネスは嬉しそうに微笑んだ。
やがて荷物の積み込みも終わり、マリアはクレーンで吊り下ろされた乗船籠に乗る。
滑車が静かに回ると、籠はゆっくりと降下し、北辰丸の甲板へと到着した。
少弐も続いて降り立つ。
甲板から見上げれば、巨大なエスペランサがまるで城郭のようにそびえ立っている。
マリアは帽子を軽く掲げた。
「ライラ、博多で会いましょう。」
ライラも甲板から大きく手を振る。
「お気をつけて!」
やがてエスペランサは風を受けて西へ帆を広げ、博多へ向けてゆっくりと航路を変えた。
一方、北辰丸は帆を張り、少人数を乗せて静かに豊後府内の港へと針路を向けた。




