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海の上で語る過去

駿河沖。


秋空の下、遠くには富士の峰が霞み、その姿を眺めながら三人は甲板に腰を下ろしていた。


マリアが静かに口を開く。


「そういえば、冬明。」


「はい。」


「私たちは夢を話したでしょう。」


「ええ。」


「今度は、あなたの番。」


ライラも頷く。


「夢でも、家族でも、故郷でもいいわ。」


冬明は少し照れたように笑った。


「私ですか。」


しばらく海を眺めてから、ゆっくりと話し始める。


「私は九州の少弐家の一族です。」


「ですが、これから向かう九州では、大きな戦が続きました。」


「その動乱で故郷を失いました。」


マリアもライラも静かに耳を傾ける。


「生き残れたのは、ほんのわずかな一族だけ。」


「私はその者たちを率いて坂東へ落ち延び、小田氏治様に召し抱えられました。」


ライラは静かに尋ねる。


「辛くなかった?」


冬明は穏やかに首を横へ振った。


「もちろん、その時は辛かったですよ。」


「ですが……。」


彼は空を見上げ、柔らかく笑った。


「今はもう何も引きずってはいません。」


「神がお与えになった試練だったのだと思っています。」


マリアが尋ねる。


「恨んではいないの?」


「恨んでも故郷は戻りません。」


「ならば、生き残った者として前を向き、少弐の名を残すことが私の務めです。」


ライラはその横顔を見つめる。


「家族は?」


冬明は少し笑って肩をすくめた。


「独り身です。」


「戦や旅ばかりでしたから、その縁もありませんでした。」


ライラとマリアは顔を見合わせ、小さく笑う。


「なら、この航海が終わったら、いい人が見つかるかもしれないわね。」


ライラが冗談めかして言うと、冬明は困ったように笑った。


「それは……神のみぞ知る、ですね。」


三人の笑い声が秋の潮風に乗って広がる。


その頃、船団は変わらぬ速度で西へ進み続けていた。


豊後まで、あと幾日――。


長い航海は、まだ始まったばかりであった。

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