西へ──鹿島出航
永禄十二年九月。
鹿島港は、夜明け前から人々の掛け声で満ちていた。
十五隻の旧型坂東ガレオンには、最後の積荷が運び込まれている。
船倉を満たすのは、兵ではない。
常陸や下総の米、霞ヶ浦の干魚と塩、会津の良材と漆器、坂東鍛冶が鍛えた鉄製品や火縄銃、紙、酒、薬草、染料、木綿、茶器、そして兵学館で改良された羅針盤や航海器具など、坂東の技術と産業の粋を集めた交易品であった。
これらはすべて、大友との交易を始めるための品であり、船とともに引き渡される予定である。
港では船大工が最後の点検を終え、水夫たちは十分な休養を終えて持ち場へ戻る。
補給は万全。
帆も索具も新調され、どの船も長い航海へ備えていた。
沖合には、巨大な母艦希望が堂々と浮かぶ。
その船内には高速探検船北辰丸が格納され、必要な時にはすぐ発進できるよう固定されていた。
船橋では、少弐冬明、マリア・ヴィアリス、ライラ・アルカセルが最後の航路を確認している。
「豊後までは順風でしょう。」
マリアが海図を見ながら言う。
冬明も頷いた。
「豊後で大友殿と会見し、十五隻と交易品を引き渡します。その後、対馬、朝鮮、五島、長崎、坊津を巡り、最後に伊予・松山へ向かいます。」
ライラは海を見渡しながら笑った。
「長い航海になるわね。でも、良い船団だわ。」
その頃、岸壁では小田氏治をはじめ、大掾幹康、鹿島政清、多くの家臣や兵学館の学生たちが見送りに集まっていた。
氏治は冬明へ歩み寄る。
「少弐。」
「はっ。」
「この船団は坂東の未来そのものだ。剣ではなく、交易と信義で西国への道を切り開いてまいれ。」
冬明は深く頭を下げた。
「必ずや使命を果たしてまいります。」
氏治は続いてマリアとライラにも目を向ける。
「お二人の力を借りられること、坂東にとってこの上ない幸運だ。」
マリアは穏やかに一礼する。
「北辰丸は必ず皆様を目的地へ導きます。」
ライラも右手を胸に当てた。
「希望は船団を最後まで守り抜きます。」
やがて、出航の法螺貝が港中に響き渡る。
旗艦希望がゆっくりと錨を上げ、それに続いて十五隻の坂東ガレオンが一斉に帆を広げた。
秋風を受けた白帆は朝日に輝き、鹿島の港を静かに離れていく。
岸壁では見送る人々がいつまでも手を振り続けていた。
こうして、坂東初の本格的な西国外交・交易船団は、豊後を目指して太平洋へと船首を向けた。




